
海星学園=長崎市で2023年4月20日、中川七海撮影
海星学園は私立だが、自分たちの判断だけで事を進められるわけではない。長崎県が学事振興課を担当にして、行政として監督しているからだ。
いじめ自死のような深刻な事態では尚更、県の監督が必要になってくる。いじめ防止対策推進法に基づき、二度と生徒の犠牲を出さない体制を確保しなければならない。
だが海星学園は、県に遺族から得た情報を伝えない。逆に遺族には、県とのやりとりを知らせない。
これでは、再発防止の体制づくりは程遠い。
海星学園は、福浦勇斗(はやと)の苦しみが綴られている遺書さえ、隠蔽する。
県との合意を遺族に伝えなかった海星学園
2017年12月20日、勇斗の8回目の月命日に、海星学園の教職員らが福浦家を訪れた。高校教頭の武川眞一郎、中学教頭の川島一麿、教頭補佐の大森保則、学年主任の木村英夫、担任の岩﨑孝治の5人だ。
2週間前の12月6日、さおりと大助は、県内の私立学校を管轄する長崎県学事振興課の職員2人と面会した。課長の松尾信哉と、参事の松尾修だ。海星学園と協議しても埒が明かないので、遺族が県との面会を希望した。
県との面会は約2時間に及び、遺族が初めて知る情報がいくつも出てきた。海星学園はわざと自分たちに知らせなかったのではないかーー。勇斗の父・大助が切り出す。
「第三者委員会も、設置する予定だったそうですね」
「新たな遺書が出てきた時点で、重大事態と捉えて、学校側とは第三者委員会を設置しようという話になっていたと、県の課長と参事が言っていました。そういう話が出ていたなら、こちらに伝えてくれればいいのに。私たちは何も知らされていないから、第三者委員会設置の要望書を出したんです」
新たな遺書とは、自死から2週間後に勇斗の自室から見つかったノートのことだ。いじめの内容や加害生徒の名前、いじめに思い悩む気持ちなどが綴られていた。それまでは、勇斗が亡くなった際に身につけていたA4のコピー用紙のみを遺書として取り扱っていたが、ノートの内容に比べて分量が少なく、いじめの詳細は書かれていなかった。
ノートを読んで、遺族はいじめを確信した。ノート発見から2日後の5月6日、大助とさおりは学校に出向き、学校側にノートのコピーを手渡した。
県と学校の間で、第三者委員会を設置することになっていたことを知らないまま、遺族は設置の要望書を2度も提出した。自死から約1カ月後の5月15日と、1カ月半後の6月4日だ。さおりは悲しみに耽る暇もないまま、睡眠時間を削って要望書を作成した。
結局、海星学園が第三者委員会の立ち上げを公表したのは6月10日。発足は7月24日で、自死から約3カ月が経っていた。県と当初から合意していたとしても、遺族の強い要望がなければ、第三者委員会の設置は見送られたかもしれない。
だが、県と合意があったのであれば、遺族に知らせるのが筋だろう。さおりと大助の海星学園への不信感はますます募った。
「県は、一番最初の分は見ています」
さらに2人は、海星学園の隠蔽を、県との面会で把握していた。
海星学園は、ノートに綴られた遺書のコピーを遺族から預かっていたにもかかわらず、県に見せていなかったのだ。これでは勇斗がいじめが原因で自死したということが、県に十分に伝わらない。
「やっぱりね・・・」
県との面会でその事実を知ったさおりは、驚かなかった。これまでも同じようなことが繰り返されてきたからだ。
例えば海星学園は、保護者説明会で遺書を全て読んだと遺族に報告していたが、実際には一部しか読んでいなかった。生徒向けの説明会でも、最初はいじめの存在を隠していた。後になって、説明会に参加した保護者に聞いたり、遺族が学校側に確認したりして明らかになった。
さおりは、海星側の5人に向かって言った。
「遺書を、県には見せていなかったんですよね?」
県との面会で明らかになった、最重要事項だ。県は、いじめの詳細が綴られた勇斗のノートを見ていなかったのだ。さおりが続ける。
「遺書のコピーは、学校側に全部お渡ししていると思いますけど」
武川は「うんうん」と相槌を打つだけだ。
さおりが再度尋ねる。
「県に見せていなかったんですよね?」
武川がようやく認める。
「県は、一番最初の分は見ています」
「最初の分」とは、勇斗が亡くなった際に身につけていたA4のコピー用紙だ。いじめの詳細は書かれていない。
さおりが提案する。
「やはり県を入れて、(遺族・学校・県の)三者で話し合うべきだと思います」
(つづく)
*敬称略
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ情報提供のお願い
本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。
そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。
Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。
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