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国葬めぐる嘘つきはどっち?/岸田首相は「しっかり調整」、内閣法制局は「意見なし」/協議内容の開示は文書1枚で隠蔽

2022年09月07日22時05分 渡辺周

安倍晋三元首相の国葬を、閣議決定で行うことは法にのっとっているのか。

岸田文雄首相は、内閣法制局と「しっかり調整した上で判断した」と述べている。内閣法制局とは、行政が憲法や法律を遵守して仕事をしているかチェックする「法の番人」である。

ところが、Tansaが内閣法制局に情報公開請求をかけたところ、公開されたのは「応接録」と呼ばれる文書1枚のみ。首相側から国葬を閣議決定で行うことについて相談を受け、「意見なし」と回答した旨だけが記されていた。

内閣法制局は、本当に何の意見も首相側に伝えなかったのだろうか。意見を言わず首相側の話を聞いていただけならば、岸田首相の「内閣法制局としっかり調整した」という言葉はウソになる。

Tansaは首相側から相談を受けた際のやりとりの詳細を公開するよう求めたが、内閣法制局はそれを記録した文書の存否すら隠蔽した。

首相官邸ホームページより

内閣法制局が開示した7月12日〜14日の「応接録」

内閣法制局がTansaの情報公開請求に対して公開したのは、「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」というタイトルの「応接録」だ。

応接録には、内閣法制局の乗越徹哉参事官らが7月12日から14日にかけて、内閣官房内閣総務官室、内閣府大臣官房総務課から相談を受けたことが記録されている。「備考欄」には「近藤長官、岩尾次長及び木村第一部長に相談済み」とあり、「相談・応接要旨」について次のように書かれている。

「標記の件に関し、別添の資料の内容について照会があったところ、意見がない旨回答した」

しかし、岸田首相は7月14日の記者会見で、国葬を閣議決定で行うことについて次のように語っている。

「これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております」

つまり、岸田首相は内閣法制局との協議内容を支えにして、国葬を閣議決定で実施すると述べているのである。内閣法制局が何も意見を言わなかったはずがない。内閣法制局は、その役割の一つである「意見事務」についてホームページでこう書いている。

「各省庁から求めがあったときは、内閣法制局は、これに応じてその法律問題に対する意見を述べることとされております。このような事務を意見事務と呼んでいます」

メモも取らずに「記憶」で仕事?

Tansaが請求していたのは以下の文書だ。

①安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局内で協議した文書一切

②安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局外とやりとりした文書一切

請求文書に「一切」という言葉をつけているのは、内閣法制局が自分たちに都合のいい文書だけを出してこないようにするためだ。

しかし、内閣法制局が公開したのは、たった1枚の「応接録」。7月12日から14日にかけて3日間も協議を重ねておきながら、1枚しか文書がないはずがない。

私は9月6日、意見事務を所管する内閣法制局第一部の職員に電話した。私が伝えたのは以下の点だ。

「7月12日から14日にかけての協議内容を記録した文書があるはずだ。こちらが求めたのは、国葬についてやりとりした『文書一切』だ。これは情報公開法に基づく請求であり、内閣法制局は法律に沿った対応をする必要がある。なぜ応接録1枚しか出てこないのか、首相側と協議した乗越参事官に会って説明を受けたい」

職員は私の伝言を乗越参事官に伝えるため、いったん電話を切った。その日のうちに折り返し私の携帯に職員から電話があった。

「乗越参事官に確認したところ、保有している行政文書はあれだけとのことです」

これはおかしい。情報公開法は第二条の2で行政文書について次のように定義している。

この法律において『行政文書』とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう

つまり職員が仕事で作成し、組織内で共有している文書は、メモやメールも含め全て行政文書にあてはまる。

国葬について首相側と協議しているなら、内容を詳細に記録した文書があるはずだ。公開した応接録の備考欄には「近藤長官、岩尾次長及び木村第一部長に相談済み」とあるから、幹部たちへの報告文書もあるはずだ。

私は再度、乗越参事官に確認するよう求めて電話を切った。

翌日の9月7日、職員から私の携帯に「結論は変わらない」と連絡があった。乗越参事官に確認した結果だという。

私は「メモも記録も取っていないのか。あなたたちは記憶で仕事をしているのか」と聞いたが、「行政文書はありません」と繰り返すだけ。乗越参事官の見解である以上、いくらこの職員を問い詰めても埒が明かない。私は電話を切った。

国葬を法的観点から検討したプロセスを、なぜ内閣法制局は隠すのか。Tansaは引き続き取材する。

内閣法制局が開示した「応接録」(※画像をクリックすると、文書を拡大したりダウンロードしたりできます)

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