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官邸、国葬の協議文書を「未作成」「廃棄」/公文書管理法に違反しても、内閣法制局との3日間を隠蔽か

2022年11月10日14時26分 渡辺周

岸田文雄首相が安倍晋三・元首相の国葬を実施したのは、内閣法制局から「法の番人のお墨付き」を得たというのが理由だった。安倍氏が殺害されてから6日後の7月14日、記者会見で「内閣法制局としっかりと調整した上で判断した」と述べた。

両者の協議が行われたのは7月12日〜14日にかけてだ。一体どのような協議が行われた上で、官邸側は内閣法制局から国葬へのゴーサインを受けたのか。

私が官邸側に、情報公開法に基づいて協議記録を開示請求したところ、結果は不開示。協議内容を記録した文書は「作成していない」か、「廃棄した」というのが理由だった。

この理由が本当ならば、公文書管理法に抵触する。

公文書管理法の四条と六条に抵触

7月12日〜14日にかけて、内閣官房内閣総務官室と、内閣府大臣官房総務課の担当者は、内閣法制局と国葬について協議した。このことは内閣法制局が9月26日に開示した1枚の「応接録」で明らかになった。「意見なし」と内閣法制局が官邸側に伝えたことしか内容がなかった。9月7日に報じた。「国葬をめぐる嘘つきはどっち? /岸田首相は『しっかり調整』、内閣法制局は『意見なし』/協議内容の開示は文書1枚で隠蔽」

そのため私は、新たに官邸側である内閣官房と内閣府に、3日間の協議内容を記録した文書を開示請求した。

それに対して、内閣官房内閣総務官室は10月28日、松田浩樹総務官名で「行政文書不開示決定」を行った。

文書の不開示理由は以下だ。

「本件対象文書については、作成又は取得しておらず、若しくは廃棄しており、保有していない」

内閣府大臣官房も10月28日、原宏彰官房長名で不開示決定した。

「開示請求に係る行政文書を作成、取得しておらず、保有していない」

しかし、これらは公文書管理法違反である。

同法はその目的を次のように定めている。

この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

内閣官房と内閣府の双方が挙げている文書の未作成については、同法の第四条に抵触する。

行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。

「次に掲げる事項」は5項目あるが、閣議決定で実施された国葬に関する今回の文書は、四条の第二項に該当する。

閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯

内閣官房の方が不開示理由に挙げている文書の廃棄は、第六条に抵触する。

行政機関の長は、行政文書ファイル等について、当該行政文書ファイル等の保存期間の満了する日までの間、その内容、時の経過、利用の状況等に応じ、適切な保存及び利用を確保するために必要な場所において、適切な記録媒体により、識別を容易にするための措置を講じた上で保存しなければならない。

しかし、国葬をめぐっては国論が二分し、学者からは憲法違反の指摘が出た。その法的な正当性を担保するため、岸田首相が支えとしたのが、内閣法制局との7月12日から3日間の協議である。この重要な協議を記録していないということも、廃棄していることもあり得ない。文書を隠蔽しているのである。

記録文書なしで有識者は国葬を検証できるのか

国葬について岸田政権は、憲法、行政法、外交など各分野の有識者20〜30人をヒアリングして検証結果を発表することにしている。有識者たちは、岸田首相が国葬実施の拠り所とした内閣法制局との協議記録なしで、どうやって意見を述べるのだろう。

森友学園と安倍政権との問題では、佐川宣寿・元財務省理財局長が国会で「森友学園との交渉記録は廃棄した」と虚偽答弁をした。

国家の重要事項を検証する公文書を、平然と隠蔽するような政府になぜ、いつからなったのか。私は追及を続ける。

松田浩樹・内閣官房内閣総務官が2022年10月28日に出した「行政文書不開示決定通知書」

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