公害「PFOA」

なぜ私は「ダイキン」の名前を出して報じるのか

2023年02月02日15時30分 中川七海

(左)井上礼之会長、(右)十河政則社長兼CEO=ダイキン工業株式会社公式ウェブサイトより

1月31日から2月1日にかけ、新聞・テレビの各社が全国各地でのPFAS汚染を大々的に報じた。1月30日に行われた政府の専門家会議や、市民団体による記者会見を受けてのことだ。私が、PFASの中でも特に毒性と残留性が高いPFOAについて報じ始めたのは2021年11月だ。全国で最も深刻な汚染を大阪にもたらしたダイキン工業を追及している。ようやく新聞やテレビが重い腰を上げた。

ところが、報道内容を見た私は呆れた。汚染源である「ダイキン」の名前を出さずに報じているのだ。

1月31日の朝刊一面で報じた朝日新聞は、「工場などが汚染源になっていると指摘される」と書いているがダイキンの名前は一切出さなかった。

同日、関西で放映されたMBS(毎日放送)のニュースでは、記者が汚染源であるダイキン淀川製作所(大阪府摂津市)のすぐそばを歩きながら、「このあたりは、あちらに淀川が流れていて、近くにはかつてPFASを使っていたことがある工場があります」と言うが、ダイキンの名前は出さない。淀川製作所の外観を映像で流したが、ダイキンであるとわかる看板やロゴは映さなかった。2月1日に放送された報道番組「news 23」でも、同様の映像の切り取り方だった。

東京新聞は「PFASを追う」と題した企画を始めたものの、ダイキンは追及しないようだ。「在日米軍基地由来のPFAS汚染問題を巡る国や自治体、住民の動きを随時紹介します」。

なぜ、ダイキンの名前を出さないのか。ダイキンが汚染源であることは、監督権限がある大阪府が認めている。ダイキン自身も、私が社外秘文書を入手した上で役員たちに取材した結果、汚染源であることを認めた。その文書には、淀川製作所の敷地外に大量のPFOAを排出していたことが記録されていた。

考えられるのは二つだ。

一つは、ダイキンとの利害関係だ。ダイキンはテレビ局や新聞社に多くの広告を出している。ダイキンを批判することが、経営難のマスコミにとっては憚られるのかもしれない。

もう一つは、マスコミで働く記者や幹部に訴訟やクレームを恐れる空気が蔓延しているということだ。米軍基地や行政を批判しても訴訟になるリスクは低いが、企業はそうはいかない。結局、叩きやすくて、自分の社内での立場が脅かされる恐れのない相手を選んでいるのではないか。

ダイキンの名前を出して報じることは必要不可欠である。責任主体をはっきりさせる必要があるからだ。日本は、水俣病やイタイイタイ病など戦後の経済発展の中で、深刻な公害を経験してきた。令和になってもなお、PFOA汚染という公害を起こしたことをダイキンは深刻にとらえ、被害者に補償し再発防止策を取るべきだ。

結局、誰を向いて仕事をするのかということだと思う。私は、ダイキンでも上司でもなく、被害者の方を向く。自分の血液から非汚染地域の数十倍ものPFOAが検出された人や、地域の子どもたちのことを心配してダイキンに対策を求める署名に奔走した人たちを置き去りにするわけにはいかない。

現在、私は本シリーズ第2部に向けた取材を進めている。第2部では、公害を温存させる日本の仕組みを描くと予告もした。その道中で、新聞やテレビがダイキンの名前を「隠蔽」したことは悔しい。企業だけではなく、マスコミも加担した「令和の公害」の構造に切り込んでいく。

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