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税金の無駄遣いが横行 総額18兆3260億円の地方創生臨時交付金はどこへ?

2023年04月25日16時17分 辻麻梨子

コロナ禍で、「地方創生」と名付けられた交付金が全国の自治体に渡りました。正式名称を「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」といいます。

交付金の目的は、コロナの感染対策と打撃を受けた地域経済や住民生活の支援のため。急を要した医療・検査体制の整備や、困窮世帯への一時的な給付金など、緊急時に自治体だけでは負担が難しい支出をカバーするために設けられました。さらに2022年からは物価高、電気・ガス料金の高騰対策まで盛り込まれ、予算の総額は18兆3260億円にまで膨らんでいます。

ところが、その交付金で無駄遣いが横行していました。全国で、コロナ対策とは名ばかりの事業にお金が浪費されていたのです。

一体何が起こっているのでしょうか。

税金なのに「大雑把でいい」?

この交付金の特徴は、使い道が自由なことです。各自治体は、自分たちで使い道の計画を立てます。政策の指揮をとる内閣府は、この自由度を大々的にアピールしました。

交付金が始まる2020年春、地方創生推進事務局の村上敬亮審議官は会見でこんな発言をしています。

「コロナ対策であればまったく制限はない」

「計画書はぶっちゃけ大雑把でいい」

「細かく審査しないで数千万や1億を使うことになるが、自治体を信じている」

その言葉通り、国は補正予算や閣議決定によってどんどん予算を積み増しました。こんなに気前がよくていいのでしょうか。

徹底的な取材で事実を掘り起こすTansaは2022年、交付金が使われた約6万5000事業をデータベース化しました。すると、コロナに乗じた無駄遣いが全国で横行していたことがわかりました。

石川県能登町の巨大イカモニュメントなどはニュースで大きな話題となりました。しかしさらに、着ぐるみづくりや現金ばらまき、婚活支援や五輪聖火リレーなど、「なんでもあり」が横行していたことが判明したのです。

人口増を掲げ、莫大な税金が使われた地方創生政策はどこへ向かったのか。シリーズ「虚構の地方創生」のこれまでの記事はこちらからお読みいただけます。

1794自治体をチェック 無駄遣いワースト100を選定

Tansaがこれまでに検証できたのは、2020年度の第1次と第2次の補正予算で計上された3兆円分の予算。交付金で行われた約6万5000事業をデータベース化しました。集めたデータは都道府県と市町村が内閣府に提出した事業計画に基づいています。

Tansaはデータベース化したすべての事業に目を通した上で、税金を納める国民の視点から、全国の無駄遣いワースト100事業を選びました。問題がある税金の使い道をページ下部の表で一覧できます。

無駄遣いの判断基準

「無駄遣い」と判断した基準は次の3つです。

①一般財源の置き換え

一つ目は、日頃から行っていた事業の財源を、単に交付金に置き換えているものです。岩手県普代村が実施した役場のエレベーター改修事業や、広島県三次市が実施した老朽化していた公用車の購入、香川県の「全国年明けうどん大会」の開催などが該当します。

財務省も、2021年10月11日の財政制度分科会でこの点を問題視しました。参考資料には、コロナ前から計画されていたトイレを洋式化する事例などを取り上げ、「国費による支援が真に必要なものかについては精査するべき」と書かれています。

②コロナ対策・地方創生と無関係

二つ目は、新潟県村上市の駅前施設のライトアップや、群馬県沼田市の風呂敷作成などといった、コロナ対策や地方創生との因果関係が薄い事業です。

自治体がコロナによる実害の状況を調べず、「対策」と銘打っている場合もあります。全世帯にコメを配布した北海道東神楽町では、役場がコロナによって町内のコメの消費量がどのくらい落ち込んでいたかさえ把握していませんでした。

③現金のばらまき

三つ目は現金の一律給付です。次につながる政策でなければ、単なるばらまきです。内閣府は2021月2月2日付で各都道府県と市町村宛に事務連絡を出しました。そこでは「交付金活用に当たっての留意点」として、個人への現金給付は「給付対象を合理的な範囲に絞る場合や、緊急性がありやむをえない場合にのみ認める」と注意しています。

福岡県桂川町や長野県小川村などが実施した現金の給付に加え、全町民の水道料金を全額補助した東京都八丈町のケースも該当すると考え選びました。

さらにTansaはいくつかの事業をピックアップし、自治体に取材をしました。明らかになったのは、納税者として納得ができないずさんな使い道でした。以下にその100事業と取材結果を掲載します。

1北海道五輪聖火リレー計画の策定3000万円
2北海道
興部町
花火の打ち上げ220万円
3北海道
黒松内町
オサナイ川の河床掘削工事104万円
4北海道
東神楽町
お米(2kg)を全町民に配布809万円
5北海道
浜頓別町
干し貝柱を全世帯に配布473万円
6北海道
湧別町
着ぐるみを作成200万円
7青森県
三戸町
町内の湧水を採取し水質を検査88万円
8岩手県五輪聖火の展示892万円
9岩手県
普代村
役場庁舎のエレベーターの改修1430万円
10秋田県誘客プロモーション用ガイドブック作成、パネル展開催1600万円
11山形県
舟形町
国宝「縄文の女神」の陶製レプリカを作成727万円
12山形県
山形市
東北絆まつりの運営負担金を補助1000万円
13山形県
三川町
中小企業者にエアコンの更新費用を補助100万円
14福島県
郡山市
①GReeeeNの楽曲の歌の動画を募集、選ばれた人に宿泊券などを送付。歌声を合わせた動画を配信
②元ラグビー選手の講演、展示会を実施"
139万円
15新潟県
村上市
医療従事者への感謝を込め、村上駅前歓迎塔をライトアップ173万円
16新潟県
新潟市
新潟まつりの代替イベントを開催750万円
17新潟県
五泉市
婚活マッチングシステムへの入会登録料を助成55万円
18茨城県著名人を活用した動画作成やプロモーションの委託料9130万円
19栃木県
市貝町
小中学校の卒業生が思い出に残る活動をする補助金を交付205万円
20栃木県
那珂川町
地域の情報を発信し、移住定住の促進を図るためのプロモーションを委託560万円
21群馬県
草津町
バス会社を広告ラッピング事業で応援し、草津町もPR2273万円
22群馬県
神流町
ARや映像、音声などで恐竜化石展示のガイドを行うアプリを制作1787万円
23群馬県
沼田市
withコロナのロゴなどを取り入れたオリジナル風呂敷を作成し、市民に販売419万円
24埼玉県
上尾市
花き生産直売所で使用できるクーポン券2,000円分を婚姻提出者に贈呈410万円
25千葉県
君津市
Go To Travel事業に併せ、利用した旅行者に市の特産品を送付する1808万円
26東京都
板橋区
表現の場を失うアーティストの動画配信を補助1500万円
27東京都
千代田区
全区民に一律12万円の給付金を支給81億5340万円
28東京都
八丈町
全町民の2020年5月から2022年1月までの水道料金を全額補助3億5000万円
29東京都
清瀬市
市内全戸にごみの指定収集袋を配布6988万円
30東京都
港区
六本木ヒルズなど、区内観光施設や店舗を利用した半額をポイントを還元1億5500万円
31富山県
砺波市
街路バナーを更新48万円
32石川県
能登町
巨大イカモニュメントを制作3000万円
33福井県入籍するカップルへのカタログギフト贈呈、花火イベント実施、ウエディング動画・キャンペーン動画を配信1億8043万円
34山梨県東京五輪自転車競技の県内コースの360度VR映像の撮影、制作委託539万円
35山梨県水素・燃料電池分野PRのための新聞広告、メディア向けバスツアー、展示会出展費用の補助1728万円
36長野県
小川村
村民1人あたり1万円を給付2420万円
37長野県
豊丘村
"①幹線道路の歩道の街路灯をLED灯に変更
②村内の総合型スポーツクラブでノルディックウォーキング教室を週1回程度開催"
3054万円
38岐阜県
各務原市
市内施設のウェブサイトを巡るスタンプラリーを実施157万円
39岐阜県
養老町
コロナウイルスの収束を願い、花火を打ち上げる1750万円
40岐阜県
坂祝町
医療・介護施設に鉢植えの花を贈呈43万円
41愛知県県立学校の湿式トイレの床の乾式化や便器を洋式化18億6784万円
42愛知県
大府市
広報大使による健康づくりや文化振興の動画配信40万円
43愛知県
扶桑町
広報誌の配布委託572万円
44三重県第9回太平洋・島サミットの開催に合わせたSNSキャンペーンの実施1843万円
45三重県
度会町
災害測量や道路、橋梁の点検に使用するドローンの購入280万円
46滋賀県
大津市
結婚披露宴等を開催した人に5万円の給付金170万円
47京都府文化財のライトアップなどの設備工事費や広報委託料5000万円
48大阪府
堺市
自主防犯パトロール車両への急発進等抑止装置設置とドライブレコーダー設置経費を補助254万円
49大阪府
池田市
全世帯に電気料金支援給付金を支給2億6597万円
50兵庫県
姫路市
姫路城のライトアップ3000万円
51兵庫県
尼崎市
SDGsに資する行動に対するSDGsポイントの拡充、市独自の決済アプリを活用したポイント還元3841万円
52兵庫県
西宮市
体育館への自動扉設置工事328万円
53奈良県
桜井市
市のマスコットキャラクターの新イラスト作成49万円
54和歌山県
和歌山市
市内の公園の除草、遊具の保守点検に協力する地域団体に助成472万円
55鳥取県
南部町
小中学校の水泳授業用の休息簡易テントの購入7万円
56鳥取県
智頭町
町産木製のおもちゃを各施設に設置45万円
57鳥取県鳥取駅を発着するバスに路線番号を付け、案内表示を制作228万円
58島根県
吉賀町
災害時の非常食を購入50万円
59島根県
美郷町
町内出身画家の作品展覧会での絵画借入報酬、レプリカ作製、作品輸送費、記念品作製費、広報費350万円
60岡山県
備前市
就学支援のため高校生に2万円、大学生に5万円を給付4529万円
61岡山県
備前市
移住希望者にチラシを配布し、PR179万円
62岡山県
高梁市
日本遺産の成羽町吹屋地域の魅力向上と活力創出の取り組み584万円
63岡山県
笠岡市
有害鳥獣を捕獲する機器への補助622万円
64広島県メキシコ・グアナファト州へのセーフティー保護メガネの購入、運輸費201万円
65広島県
三次市
老朽化していた公用車を購入1724万円
66広島県
江田島市
市内の商品、イベント、取組などのプレスリリースを県外メディアに配信48万円
67広島県
呉市
グリーンピアせとうちにコロナで減収した収入の50%を補填6322万円
68徳島県
佐那河内村
村民の県外の親戚などに、特産のすだちを送る101万円
69徳島県
石井町
町内の事業所で消費すると景品が当たる宝くじ抽選券を配布630万円
70香川県「全国年明けうどん大会」の運営費、謝礼、旅費、広告費など3024万円
71香川県
三木町
75歳以上の高齢者に布マスク1枚を配布360万円
72愛媛県
松野町
町の資源である俳句文学をラジオで発信165万円
73愛媛県
今治市
通勤時の三密回避のためのスポーツ用自転車やヘルメット購入費、駐輪場整備費7999万円
74高知県
東洋町
スポーツトラクター1台を購入526万円
75高知県
田野町
コミュニティバスの停留所に、待合スペースを新設152万円
76高知県
室戸市
海洋深層水を貯水するための100tタンクを増設3300万円
77福岡県「出会い応援団体」にイベントでの感染対策費用を助成、オンラインでのイベントを推進7289万円
78福岡県
筑前町
稲わらで巨大わらかがし製作、複数カ所からの花火の打ち上げ510万円
79福岡県
桂川町
海外留学中で国の特別定額給付金が受けられない学生の保護者に10万円を給付50万円
80福岡県
桂川町
県道沿いに、感染症情報を発信する電子ディスプレイを設置363万円
81福岡県
遠賀町
町のゆるキャラ「おんがっぴー」の新たなデザインを作成55万円
82福岡県
みやま市
市のマスコットキャラクター「くすっぴー」のデザインを作成38万円
83佐賀県
佐賀市
豪雨時の市内主要箇所の浸水状況確認をテレメーターで自動化520万円
84佐賀県
佐賀市
塩害防止のため、ICT塩分測定器を設置739万円
85長崎県
川棚町
町長などの幹部用公用車を購入385万円
86熊本県
人吉市
ふるさと納税者などとのオンラインイベントを開催、インフルエンサーへ謝金や交通費を支給300万円
87熊本県
宇城市
100%分のプレミアムをつけた商品券2万円分を1万円で販売24億368万円
88大分県
佐伯市
展望所の芝桜とアジサイの花壇を拡張394万円
89宮崎県
高千穂町
高千穂の風景をドローンで空撮し、VRコンテンツを制作349万円
90宮崎県
日南市
登録有形文化財・五百禩神社の庭園整備やリーフレット作成151万円
91鹿児島県
南九州市
小中学校に給茶機を設置1030万円
92鹿児島県
出水市
ツル越冬地への不特定多数の出入を管理する実証実験を実施380万円
93沖縄県
本部町
町民のマリンレジャー体験費用を負担、外部に発信してもらう253万円
94沖縄県
北中城村
世界遺産中城城跡の一部を整備する214万円
95沖縄県
国頭村
道の駅に電気自動車や電気バスの充電器を整備1203万円
96沖縄県
多良間村
"①著名人アーティストに壁画を描いてもらい、集客を図る
②中学生を対象に島の思い出づくりをする"
200万円
97沖縄県
大宜味村
花火の打ち上げ100万円
98沖縄県
石垣市
「観光闘牛大会」を入場無料で開催50万円
99沖縄県
宜野湾市
"①観光客へのPRを目的とした海の水中映像の制作
②市民50人にダイビング講習を実施し、外部に発信してもらう"
1499万円
100沖縄県
伊平屋村
全集落に一律30万円の給付金150万円

(事業費は自治体によって交付金の額を示している場合と、交付金以外の予算も含む総事業費を記している場合とがあります。)

無駄遣い事例①東神楽町 町の実態を把握せず全町民にコメ配布

北海道東神楽町は人口約1万人の、コメや野菜を中心とした農業が盛んな町です。

町は、地方創生臨時交付金809万円を活用して、特産品のコメ2kgを全町民に配布しました。事前に1人につき1枚、コメの引き換えはがきを町民へ送付。町民はそのはがきを町内に設置された窓口に持参し、コメと引き換えるという流れです。

事業の目的は、コメの価格高騰で落ち込んでいる消費を拡大することでした。コメの価格高騰は、コロナ禍による外食産業の需要の落ち込みで起きていることから、コロナ対策として使うということです。

しかし、東神楽町は町内のコメ消費の減少率は把握していませんでした。全国的に消費が落ち込んでいるというデータを参照しているだけです。

そもそも、町内のコメ消費の量を増やしてどのような経済効果があるのでしょうか。

産業振興課の担当者は次のように説明しました。

「東神楽町外へのコメ産業PRも目的に含まれており、町外へのPRとしては北海道新聞で取り組みを掲載してもらいました」

無駄遣い事例②福島県郡山市 GReeeeNを歌った動画を応募すれば商品券

福島県郡山市は、GReeeeNの楽曲「星影のエール」を歌う動画を市内外から募集しました。応募すれば、市内の飲食店や旅館で使える商品券と宿泊券をもらえ、動画は青年会議所のYouTubeチャンネルでアップするという事業です。商品券と宿泊券に必要な予算は青年会議所が負担し、「星影のエール」の原盤使用料29万7000円をコロナの交付金でまかないました。

一般枠174組、企業枠19組、アーティスト枠10組が応募しました。

狙いは二つです。

一つは、商品券と宿泊券を市内で使ってもらい経済を活性化させること。

もう一つは、音楽都市を掲げている郡山市が、コロナ禍でも音楽で盛り上がっていくことです。市国際政策課によると、GReeeeNは地元出身で「郡山フロンティア大使」を務めていることから、歌の動画を募集する際の楽曲として「星影のエール」を使うことにしました。

ところが、29万7000円で「星影のエール」の原盤を使用できる期間は1年間のみ。今回の事業で青年会議所のホームページにアップした動画は、2021年9月で見られなくなっていました。

無駄遣い事例③群馬県神流町 恐竜アプリ、ダウンロード数把握せず

群馬県神流町(かんなまち)は、日本で初めて恐竜の足跡が見つかった町です。

町には町役場が直営している、神流町恐竜センターがあります。展示を見たり化石発掘体験ができたりと親子連れや恐竜ファンにも人気で、町内外から年間約30,000〜35,000人が訪れます。

町は地方創生臨時交付金約1,700万円を使って、ARを活用した恐竜アプリを制作しました。アプリ内で使われるCGは、映画ドラえもんやナショナルジオグラフィック日本版のCG制作者が請け負いました。

作ったアプリは二つです。一つ目は神流町恐竜センターの公式アプリ。

アプリでは、恐竜を街中や家に出現させて楽しむことができます。恐竜を選び画面をタップすると、画面内に等身大に近い恐竜が現れ、恐竜と写真を撮ることも可能です。

二つ目は展示ガイドのアプリ。

センター内で端末を1時間1,000円で借りてアプリを起動させ、ARのマークがある展示に端末をかざすと、展示されている恐竜が画面の中で動き出す仕組みになっています。

なぜ地方創生臨時交付金を使って、アプリを制作したのでしょうか。プロジェクトを担当した神流町の職員に聞くと、以下のような回答が返ってきました。

「そもそも私が恐竜センターへ異動になった7年前、自分自身も恐竜についてあまり詳しくなく、今回リリースした2つのようなアプリが欲しいと異動当初から思っていました」

「でも当時は予算的に厳しく、計画は見送りになりました。そんな中、地方創生臨時交付金が給付されアプリ開発の計画書を提出したところ、承認され計画の実行に踏み切ることができました」

アプリのダウンロード数を、恐竜センターは把握していません。

無駄遣い事例④東京都八丈町 水道料金無料、好評につき再延長

人口7100人の東京都八丈町。2020年6月から2022年1月まで水道料金を全額補助して無料にしました。財源は地方創生臨時交付金3億5000万円です。

町の企画財政課によると、水道料金を無料にすることにしたのは「一般住民も企業も畑に散水する農家も、均等に助けてあげたい」と考えたからとのこと。「全町民に恩恵がある手段」として、水道料金全額補助したといいます。

無料になる期間は当初、2021年の3月まででした。しかし全額補助を始めると、住民からの評判がよかったといいます。議会からも継続の要望があったため、2022年1月まで無料期間を延長することになりました。

延長分の財源にも、地方創生臨時交付金を充てました。交付金の申請を受けた内閣府は何も言わなかったのでしょうか。企画財政課の担当者はTansaの取材に対し、「あー、全く何も言われてないです。そのまま通りました」と回答しました。

無駄遣い事例⑤福井県 結婚応援事業、結婚すれば花火大会に招待

福井県は、コロナ禍でも結婚する人を応援し県内の婚姻数を支える目的で「ハッピーマリッジ応援事業」を実施しました。財源として使われたのは、9900万円の地方創生臨時交付金です。

事業の内容は以下の四つ。

① 結婚に関連する5万円相当の商品やサービスのプレゼント3000組分。県内の式場やレストラン、アクセサリーショップなどの結婚関連事業者100店舗の商品・サービスが載っているカタログの中から選べる。

例)「頭皮環境改善スパ」、「タキシードやジャケットなど衣装の5万円割引」、「結婚指輪の5万円割引」、「露天風呂付客室のペア宿泊券」、「二次会での割引とシャンパンタワーのプレゼント」、「ブーケや花束の5万円割引」

② ウェディングムービーの無料撮影10組分。撮影にはドローンも使う。

③ 福井県で開催する花火イベントに10組の入籍カップルを招待。福井新聞オンライン(2021年3月18日付)によると、2021年3月13日に同県美浜町の飲食店で開かれた花火大会の観賞イベントでは、日本海をバックに1300発の花火が打ち上がった。参加した夫婦はコロナ禍で結婚を控えているカップルを念頭にして、福井新聞の取材に「こんな時だからこそつながりが大切。一歩踏み出し2人で困難を乗り越えて」とエールを送った。

④ コロナ禍でも結婚した夫婦のエピソードと、結婚を考えている人への応援メッセージを集めた動画の配信。福井県は「コロナ禍での結婚をためらっている方、若者の結婚を応援してくださる県民の皆様はぜひご覧ください」と、県のホームページに動画をアップしている。

県民活躍課はTansaの取材に「婚姻件数、婚姻率共に数値としては減少しましたが、婚姻率の全国順位は2019年度の23位に対し、2020年度は16位に上昇しております」と回答。事業の意義はあるとの見解です。

福井県が実施したハッピーマリッジ事業。結婚する人に5万円のカタログギフトなどを配った(県ホームページより)

無駄遣い事例⑥広島県 感染防護のメガネをメキシコに、8200個200万円

広島県は、医療現場で感染対策として使用するセーフティーメガネ8200個を県内企業から購入しメキシコ・グアナファト州へ輸送しています。メガネの購入費と輸送費に地方創生臨時交付金約200万円を当てました。

広島県とグアナファト州は友好提携を結んでいます。県内に拠点を置くマツダが、2014年からグアナファト州の工場で自動車を量産し始めたことが、交流のきっかけでした。

今回はグアナファト州政府から県が、コロナ感染対策に関する物資支援の要望を受けたといいます。県は、グアナファト州に拠点をおく県内企業でつくる「広島グアナファト親善協会」と共に、メガネの送付事業を実施しました。親善協会は県が用意したメガネとは別に、1800個を購入して送りました。

今回メガネを送ることと、地方創生とはどのような繋がりがあるのかという問いに対して職員は、次のように答えています。

「非常に答え辛い。直接的には関係があると言えないが一例を挙げるとすると、普段から交流関係を持っていたことによって、オリンピック開催時にメキシコ選手団の事前合宿を受け入れることになった。そういう意味では貢献していると思う」

無駄遣い事例⑦香川県 全国年明けうどん大会、通常予算の肩代わりで3000万円

香川県は、2020年12月に開催したイベント「全国年明けうどん大会」の開催費用の全額を、地方創生臨時交付金約3000万円でまかないました。開催費用には運営費、謝礼、旅費、広告費などが含まれます。

大会は2014年から毎年開催。目的は、年末の「年越しそば」に対して、香川県の名物であるうどんを、年始の縁起物として食べる習慣を普及させることです。全国のうどん店が会場に集まり、さまざまなうどんをその場で味わうことができます。例年4万人以上が訪れていましたが、コロナ禍での開催となった2020年は入場制限を行い、約3000人が来場しました。

大会の開催費には、これまで県のお金が使われてきました。2021年も県費で開催されているため、2020年も県でまかなうべきだったのではないでしょうか。

県産品振興課の担当者は、「コロナによる経済対策として、県が取り組む課題の一つに大会があり、それにかかるお金を補助してもらえるという話だったため」と話しました。

無駄遣い事例⑧長崎県川棚町 公用車にアルファード購入し幹部の感染リスク対策

長崎県川棚町は人口約13500人の町。地方創生臨時交付金385万円を充て、町幹部が使用する公用車1台を購入しています。車種はトヨタのアルファード。幹部用公用車を使えるのは、町長、副町長、教育長のほか、各課の課長など15人程度です。

もともと町が所持していた公用車は30台。現場に視察に行くための軽トラックや乗用車も含まれ、一般の職員たちが使用しています。これまで幹部用の公用車はありませんでした。

幹部用として新たに公用車を購入した理由は、コロナの感染対策です。

公用車を購入した2020年秋頃は、まだ町でコロナに感染した人は1人もいませんでした。しかし町内での感染が広がれば、幹部たちには対策本部を仕切る役割があります。幹部の感染リスクを下げるため、専用の公用車を購入したといいます。それまでは幹部でも町外へ出張に行く際には、鉄道やバスといった公共交通機関を使っていました。

町幹部は公用車を多い時で、月に10回ほど使用しているといいます。

しかし、町が継続的に使用するものであれば、一般財源を充てるべきではないでしょうか。

総務課の担当者は回答に窮し、「私はその当時は今の係にいなくて、詳しくはわからないんです」と答えました。

交付金を幹部用の公用車に使ったことへの町民からの意見や批判については「今のところはないですね」(同職員)といいますが…。

会計検査院も指摘

交付金をめぐっては、会計検査院が検査を実施。2020年度の交付金額が大きかった24都道府県と965市区町村の計4万5469事業、3兆4058億円分を検査し、不適切な使用があったことについて指摘しています。(会計検査院の令和3年度決算検査報告はこちら

例えば水道料金の減免事業では、84市町村で警察署などの公的機関の水道料金減免にまで交付金が使われていたことが明らかになりました。また商品券などの配布事業では、30市区町村で、使用期限が過ぎるなどして換金されなかった商品券が商工会に滞留している点を指摘しています。

地方創生臨時交付金は今年3月にも、物価・燃料高対策として1兆2000億円が計上されました。1兆2000億円のうち、5000億円分が低所得者世帯への3万円の給付。残りの7000億円は、LPガス料金の負担軽減費用などとしてあてがわれています。

今回は使い道の枠こそありますが、実際にはこれまでと同様に詳細は自治体が決める仕組みとなっています。

例えば低所得者層への給付では、1世帯あたりの支給目安は3万円ですが、実際の給付額や対象は自治体が決めます。エネルギー料金の高騰対策に至っては、地方創生臨時交付金の推奨メニューに加える形にとどまっているのです。これまでの取材結果を踏まえると、今回の追加計上予算も「物価高対策」という名目さえあれば、地方自治体が自由に使える予算になる可能性があります。

Tansaは引き続き税金の使い道をきちんと検証し、報道していきます。

本記事はシリーズ「虚構の地方創生」を抜粋しています。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。

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