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子どもの性被害 映像がアプリで売買される実態、トイレの盗撮映像やSNSの切り取りも…

2023年04月21日16時30分 辻麻梨子

(イラスト:qnel)

今、スマートフォンのアプリやネットの掲示板などで、性暴力を受けている子どもの映像を売り買いする犯罪が頻発しています。中でも一見普通の写真・動画交換アプリを騙った「動画シェア」「アルバムコレクション」というアプリが、子どもの性被害映像を売買する温床になっていました。

なぜ犯罪が横行しているのでしょうか。子どもたちを守るにはどうすればよいのでしょうか。

Tansaは被害の実態を取材しました。

知らない間に、写真や動画が性的な「商品」にされている。取引の舞台はスマホアプリだった。カネ目当ての投稿者が次々と「商品」を投稿・拡散する。当局の摘発も追いつかない。被害者の苦しみは永遠に続く。アプリはGoogleやAppleで提供され、少なくとも10万回以上ダウンロードされた。巨大プラットフォームが支える構造をなくさない限り、この地獄は終わらない。本記事は2022年11月から継続中のシリーズ「誰が私を拡散したのか」の抜粋です。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。シリーズの最新記事はこちら

※実態を広く伝えるため、加害者の手口や被害の内容を紹介する記述があります。フラッシュバックなどの症状がある方はご注意ください。

子どもの映像探す、「犯罪者たち」が集まるアプリ

子どもが泣きながら体を触られている映像、公共施設のトイレで撮影された複数の子どもの盗撮映像。これらは、私が取材の中で取引されているのを確認できた映像です。実際に映像の中身を確認できたものだけでも、その数は200本以上にのぼります。2023年1月、Tansaはこの実態を報じました

取引の温床となっていたのは、「動画シェア」「アルバムコレクション」という2つのアプリでした。どちらも大容量の動画ファイルなどを気軽にシェアできる、一見普通のアプリに見えます。2023年4月24日時点で、動画シェアはGoogleのGoogle PlayとAppleのApp Store、アルバムコレクションはApp Storeからダウンロードすることができます。また、検索エンジンからウェブサイトを見つけることもでき、誰もが利用できる状態にあります。

しかしこれらのアプリで取引されているのは、ほとんど全てが、本人が公開に同意していないと思われる性的な写真や動画でした。標的になっているのは女性、そして子どもたちです。両アプリには、秘密裏に性的画像をやりとりできる仕組みを備えていました。

SNSの切り取り映像までもが「性」の対象に

私が確認した映像の中には、もっとも小さくて3歳ほどの幼児が映っていました。他にも小学生、中学生、高校生とほとんど全ての年代の未成年と思われる被害者がいました。

映像の中で子どもたちに対して行われていた加害は、多岐にわたっています。

多く見られたのは裸を撮影されているもの、学校や施設と見られる場所での着替えやトイレの盗撮、大人との性交や性的行為を強制されている映像です。

子どもたちは、笑顔で応じている子もいれば、呆然としていたり、泣き声を上げて身をよじったりしている子もいます。

動画を撮影する加害者や、それを売り買いする者たちにとって、子どもたちの年齢は「付加価値」となっていました。未成年であることを強調するため、動画内に登場する子どもにわざと年齢を聞く場面も見つかったのです。

別のフォルダには、22本の動画が入っていました。それらは全て、公共施設などのトイレで盗撮された映像でした。トイレの中に盗撮用のカメラが仕掛けられているのです。映像には小学校低学年から中学生ほどの女の子が、顔までわかる状態で写っていました。

さらには、子ども自身が撮影したような「自撮り」の映像や、服を着た状態の映像、家族や親などが日常風景を撮影したSNSの映像を切り取ったものまで取引されていました。撮影者が性的な要素はないと思っているものでも、加害者にとっては「商品」となり、売買の対象となるのです。

金目当ての投稿、被害者には深刻なダメージ

写真や映像をアプリに投稿しているのは、主にお金儲けが目当ての加害者たちです。アプリに投稿した写真や映像の入ったフォルダが誰かに購入されると、加害者にお金が入ります。加害者はより多くの人に映像を購入してもらえるよう、自分の投稿をSNSや掲示板で宣伝します

こうした宣伝には、映像に写っている被害者の顔写真や名前、年齢、通っている学校名、SNSのアカウントなどが一緒に投稿・拡散されることもあります。個人を特定するこれらの情報を教えることと引き換えに、購入者に追加料金を課す加害者もいます。

被害者は一度映像がばらまかれてしまえば、それらを止める手段がありません。映像を投稿した人やサイトに削除を求めることはできますが、そうしている間にも映像はさまざまな人の手に渡り、収拾がつかなくなるのです。被害者やその周囲の人たちには、「映像がどこの誰に見られているかわからない」「知っている人に気付かれるかもしれない」という不安が付き纏います。私が取材したケースでは、ストーカー被害にも遭い、自殺未遂をした被害者もいました。

また子どもたちに対する性暴力であれば、身体的な虐待やネグレクトと異なり、そもそも外からはわかりにくいものです。本人もされたことの意味がすぐには理解できない場合があり、助けを求めることが難しくなります。

子どもの頃に受けた性被害が心身に深い傷を残すことは、専門家も指摘しています。その様子を撮影した映像までもが流出していたら、被害者の生涯に深刻な影響がもたらされることは想像にかたくありません。

子どもを表す「隠語」

当然、こうした行為は犯罪に該当する可能性があります。子どもが被害者の場合には、児童ポルノ禁止法違反などの罪に問われます。

警察は児童ポルノ禁止法違反で捜査をする際、必ずしも被害に遭った本人を特定する必要はありません。写真や動画内に写る被害者が未成年であると確認できれば、犯人を逮捕することができるのです。被害者が被害を申し出る必要のあるリベンジポルノなどと比べると、捜査のハードルは下がることになります。

アプリに性的写真や動画を投稿している加害者たちの間でも、「児童ポルノはまずい」という認識があるようです。

そこで加害者たちが使うのが、児童ポルノであることを示す隠語です。例えば、「炉」は幼女や少女を表すロリータ、「s」は小学生、「c」は中学生、「jk」は女子高校生、「和」は日本人の少女であること暗に示す言葉として使われていました。

アプリ内のチャットができる掲示板や、ネット上で動画を取引する掲示板では、加害者同士で知っている隠語を使い、写真や映像の対象や、撮影された際のシチュエーションを書いて購入者にアピールしていました。以下は私が実際に目にした投稿内容です。

「炉の詰め合わせ」

「更衣室 盗撮 超絶美少女S高学年」

「無邪気なSを車に連れ込んでワイセツ行為」

「最近の鬼畜すぎな和Sイタズラ記録」

アルバムコレクションの掲示板に投稿されていたコメント。黒塗り部分に、動画をダウンロードするためのパスワードが記載されている。

子どもを守るために警察は?

私が発見したある掲示板では、1日の間に3000件以上の宣伝の書き込みが見られたこともありました。そのほとんどが子どもの映像を売っている投稿者によるものです。

デジタル性暴力被害は、すでにさまざまな国で問題になっています。韓国では2020年、金儲けのためにネット上のチャットルームで未成年の子どもたちが性的虐待を受ける様子を撮影したり生配信したりしていた男が逮捕されました。事件は「n番部屋事件」と呼ばれ、取引や閲覧には約26万人以上が関わったとされます。韓国は新たな法律を整備し、規制も強化しましたが、子どもを狙った同様の犯罪は無くなっていません

子どもたちが被害に遭い続けている状況に、日本の警察はどう対処するのでしょうか。

私は警察庁サイバー特別捜査隊に取材を申し込みました。サイバー特別捜査隊は、2022年4月に発足。主な目的を、政府や企業を狙った大規模なサイバー攻撃に対応することとしています。

しかし、隊長の佐藤快孝(よし・たか)氏は就任会見で次のように述べています。

「サイバー空間における安全安心の確保に努めて参りたい」

「捜査や技術に精通した人材や専門の資機材といったリソースが(サイバー特別捜査隊には)集約されております」

この発言を聞き、政府や大企業をサイバー犯罪から守るだけではなく、子どもや女性が犠牲になる性犯罪も捜査してくれるのではないかと私は思いました。現状では私がいくら犯罪にあたるような性的な動画や写真を見つけても、数が多くて通報が追いつきません。しかし、この隊には捜査のための人材と資機材が集約しています。

そこで2022年12月9日、私は警察庁サイバー特別捜査隊に対して質問状を送りました。私が取材しているアプリを使った大規模な児童ポルノや、リベンジポルノ拡散の犯罪捜査に着手するかという内容です。

12月23日に届いた回答は、次のようなものでした。

個別の事件についてはお答えすることはできませんが、一般論として申し上げれば、警察では、「子供の性被害防止プラン(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)2022」を踏まえ、児童ポルノ等については、特に低年齢児童を性的好奇心の対象とする悪質な事犯の取締りを強化するとともに、児童の保護、支援等を推進しております。

また、リベンジポルノについても、被害に遭われた方の心情に配意しつつ、取締りの徹底や画像の削除に努めるとともに、被害の未然防止のための教育・啓発等、関係機関と連携した対策を推進しております。

なお、サイバー特別捜査隊は、警察法上、重大サイバー事案に係る犯罪の捜査を行うこととされており、この種の事案については、主に都道府県警察の生活安全部が対応しております。

児童ポルノなどのネット上の性犯罪に、都道府県警の生活安全部が所管する現在の仕組みだけで対応できるとは、私には到底思えません。ネット上での犯罪は、県境どころか、国をも跨いで毎分、毎秒展開されているものだからです。

被害件数が多いことも問題です。これまでに取材した現役の警察官や警察庁OBからは「検挙がまったく追いついていない」という声を聞いてきました。

手に負えないのであれば、なおさら対処方法を変えるべきです。

警察庁は対面での取材には応じませんでした。

プラットフォームも対応に責任

動画シェア、アルバムコレクションを提供しているGoogleとAppleはどう対応するのでしょうか。私が最初に両社に質問状を送ったのは2022年9月です。当初から両アプリで児童ポルノが売買されていることを指摘してきました。

Appleのアプリストアには、これらのアプリで違法な動画がやりとりされていることを指摘するユーザーレビューも複数寄せられています。

動画シェア、アルバムコレクションが児童ポルノの売買に使われていることを考えれば、アプリを提供しているGoogle、Appleの責任は重いはずです。

私は両社に度々回答を催促してきましたが、明確な返答はありません。被害を広げたプラットフォーマーが逃げ続けています。

しかし大人の無責任の代償を、子どもに払わせてはなりません。今現在の被害に対処するだけでなく、これから起きうる被害も阻止する必要があります。

なぜ大きな被害を生んでいる犯罪行為が許され続けているのか。私は取材を続けていきます。

巨大プラットフォーマーが提供するアプリ内で、子どもの性被害映像やリベンジポルノを取引する犯罪行為が行われています。Tansaは「誰が私を拡散したのか」と題したシリーズ記事を発信し、被害を少しでも食い止めるべく活動しています。取材にかかる費用やリポーターの人件費は、個人からの寄付や財団からの助成金でまかなっています。取材を継続するため、ぜひご支援をご検討ください。ご支援はこちらから。

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