保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

代理人弁護士を避ける審査委員会 –共同通信編(14)

2023年06月06日22時26分 中川七海

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2022年12月6日、共同通信は記者・石川陽一に対する審査委員会を立ち上げた。文藝春秋から出版した石川の著書『いじめの聖域』に関して、長崎新聞が共同通信に抗議したためだ。審査委員長はじめ委員会の構成員すら明らかにしない「覆面審査委員会」だった。

審査委員会は石川に対し、意見書の提出の有無など委員会への対応を、12月9日午後5時までに決めるよう通告した。

だが審査委員会は、長崎新聞の抗議の詳細すら示さない。判断材料もまともに与えられない石川は、報道の自由を守る弁護士として定評のある人物に代理人を依頼する。

報道の自由を守る弁護士

審査委員会から石川への連絡係は、千葉支局長の正村一朗だ。自殺した福浦勇斗(はやと)の母・さおりから、12月5日にカステラと手紙を受け取っている。手紙には、勇斗の件を熱心に報じてくれた石川と共同通信への感謝が綴られていた。だが正村は手紙が送られてきたことを石川に知らせることはなく、審査委員会からの要求だけを矢継ぎ早に知らせてきた。

正村が12月8日午後8時23分に送ったメールは、石川に12月9日午後5時までに審査委員会に回答するよう通告するものだった。回答する内容は、審査委員会での意見表明と、取材メモ・録音の提出をどうするかというもの。回答期限まで、24時間を切っている。

石川は、心身ともに疲弊しきっていた。約1カ月前の11月10日に文藝春秋から著作を発行した翌日以降、共同通信から連絡を断続的に受けている。社用・私用携帯を問わずかかってくる電話や、電話に出られないと入るメール。9カ月の子どもを抱え、育児休暇中でも会社はお構いなしだ。

「このままでは身が持たない」

石川は、弁護士の喜田村洋一に代理人を依頼した。喜田村は、文藝春秋の顧問弁護士を務める。

喜田村は、法廷でメモを取る権利を最高裁から勝ち取った「法廷メモ訴訟」、通称「レペタ事件」など数々の実績がある。

何より、報道の自由を守るために闘ってきた弁護士として定評がある。文春側の弁護士としてジャニーズ事務所と闘って、ジャニー喜多川の性加害を裁判所に認定させたのも喜田村だ。

喜田村の、報道の自由に対する考え方は以下だ。

報道の自由は憲法で保障されている、民主社会を実現するための重要な権利だ。萎縮してはならない」

石川の依頼を喜田村は快諾した。

いじめの構図そのもの

12月9日午後3時22分、石川は喜田村をCCに入れ、審査委員会にメールを送った。

本件につきましては今後、私の代理人である喜田村洋一弁護士が全て対応します。一切の連絡は喜田村弁護士にお願いします。本件に関しては私に連絡をされても、対応しませんのでご承知おきください。

石川のメールから3時間半後、なぜかまた審査委員からのメールが石川に届いた。喜田村の宛先は外されていた。法務知財室長の石亀昌郎からだった。

喜田村洋一弁護士に対応を一任されているとのことですが、社から職員に対する連絡事項にすぎませんので、直接送りました。

石川は唖然とした。会社は、自分のことを容疑者のように聴取した上で、審査委員会まで設置している。石川にとっては自分の将来に関わる重大事だ。それを、「職員に対する連絡事項にすぎない」と言って喜田村を宛先から外すとはどういうことか。

その後も石川は再三にわたり、代理人である喜田村とやりとりするよう求めたが、全て無視された。

なぜここまで喜田村を回避するのか。

実は、約1カ月前の1回目の聴取で、法務部長の増永修平と人事部企画委員の清水健太郎は、すでに喜田村を意識していた。喜田村が文藝春秋の顧問弁護士であることを知っていて、著書に対する喜田村の見解を石川に尋ねていた。

共同通信は、喜田村との闘いを避け、社員である石川だけを相手にしようとしているのだ。

強い相手は避け、標的を孤立させる。いじめの構図がそこにはあった。

石川陽一著『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』(2022年11月10日、文藝春秋発行)

=つづく

(敬称略)

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