編集長コラム

「岸田首相が嘘をついた」と主張する官僚たち(64)

2023年06月17日16時26分 渡辺周

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Tansaは2023年1月27日、岸田文雄首相に対して、行政不服審査法に基づいて審査請求を行なった。

岸田首相が当時国葬に踏み切ったのは、「法の番人」である内閣法制局と、内閣官房・内閣府との協議を受けてのことだった。だがその内容を記録した文書を、Tansaが開示請求しても拒んだ。審査請求は、そのことへの対抗措置だ。

5月23日付で、Tansaの審査請求に対する反論文書が、内閣官房と内閣府から届いた。内容に唖然とした。

内閣官房と内閣府が文書をTansaに開示しなかった時の理由は、それぞれ「文書を廃棄した」、「文書を作成していない」だった。つまり文書を持っていないから出しようがないということだ。

これだけでも呆れるが、今回の反論にはさらに「ではなぜ廃棄したり、作成しなかったのか」という理由が書かれていた。

「政策的な意思決定に関わるやりとりを行なったという事実がない」

これは「岸田首相が嘘をついている」と、部下である官僚たちが言っているのに等しい。なぜか。

内閣官房内閣総務官室と内閣府⼤⾂官房総務課が、国葬を閣議決定で実施することについて、内閣法制局と協議したのは2022年7月12日から7月14日の3日間だ。岸田首相は7月14日の記者会見で、朝日新聞の記者から「国会審議は必要ないのか」と問われ、こう答えた。

「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです」

内閣法制局との協議を、国葬実施の拠り所とする岸田首相の態度は、その後の国会でも変わらなかった。

例えば、2022年9月8日の衆議院議院運営委員会で、浅野哲議員(国民民主)が「内閣府の独断で国葬儀という国の儀式をやるかやらないかを決定することはできないのではないか」と質問すると、以下のように答弁した。

「内閣法制局ともしっかりと確認の上で、政府として判断ができるという判断の下に今回の決定を行った」

これほどまでに岸田首相は、内閣法制局との協議を、岸田内閣による国葬実施の判断の根拠にしている。

ところが内閣官房と内閣府は、協議記録の「未作成」「廃棄」の理由として、「政策の意思決定とは関係ない協議だった」とTansaへの反論で主張したのだ。岸田首相の記者会見での発言や、国会での答弁を真っ向から否定するものである。

そもそも、文書がないはずがない。

「未作成」が本当ならば、3日間も内閣法制局と協議していて、「大事な話し合いではないから」という理由で記録を取らず、ただ会話をしていたことになる。

「廃棄」が本当ならば、国会や、岸田政権による有識者へのヒアリングで国葬の是非が検証された一方で、「内閣法制局とは大事な話し合いをしなかったから」という理由で、パソコンから文書を削除したり、シュレッダーにかけたりしたことになる。

もう少しマシな言い訳が思いつかないのか。この言い訳が、岸田首相を追い込んでしまう矛盾もはらんでいることも考えると、私は官僚たちの極度の劣化を感じる。

だが、このような官僚がはびこる責任の一旦は、私たちジャーナリストや市民にもあると思う。唖然とするような政治の振る舞いが日常になってきて、怒ることを忘れてしまったようにみえるからだ。政治家や官僚にしてみれば「どうせみんなおとなしいし、すぐに忘れるよ」という意識があるから、ナメきっているのではないか。

怒るというのはエネルギーがいる。それでも、慣れっこにならず怒ることが大切だと思う。

Tansaは、内閣官房と内閣府からの5月23日付の反論に対して、6月13日に再反論書を送付した。

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