編集長コラム

面白がる女性たち(76)

2023年09月09日19時57分 渡辺周

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Tansaについて私がよく受ける質問の一つが「なぜTansaは女性が多いのか」というものだ。常時活動しているメンバーは、渡辺、辻麻梨子、中川七海、高橋愛満、佐野誠の5人。女性6割、男性4割だからそれほど偏ってはいない。なぜ「女性が多い」と思われるのか。

一つには、他のメディア会社は男性の比率が高いことがある。日本新聞協会が加盟新聞社・通信社92社を対象に、2022年4月現在の従業員の男女構成比を調べたところ、女性の割合は22.2%だった。

記者に占める女性の割合も24.1%。取材にやってくる記者も、記事で見かける署名も男性の方が圧倒的に多いということになる。「メディアって男性社会」という印象を持っている人の目には、Tansaの男女構成が新鮮に映るのかもしれない。

だが、もう一つの理由の方が大きいと私は思う。それは、彼女たちが躍動していて存在感があるということだ。

Tansaは2017年にワセダクロニクルとして創刊して以来、財政的に不安定だ。当初は無給で、取材経費でさえポケットマネーから賄うこともあった。尽力してくれたメンバーたちに報いることができず、私の中では申し訳なさが募っていった。経営者の先達たちからは「社員の生活が成り立つようにするのが、社長の仕事だ、お前はまだまだ甘い」と説教されることもしばしば。私は「そりゃそうだ、これからは取材して書くだけじゃダメなんだ」と反省した。「マネジメントの父」とも言われるピーター・ドラッガーや、名経営者たちの本を読みあさった。エクセルに諸々の数字を入れてにらめっこした。

だが本を読んだり、資料を作ったりしたところで、劇的に何かが変わるわけではない。たまに会った友人に「眉間のシワが深くなった」と言われる始末だ。

そんなジメジメした感じを吹き飛ばしてくれたのが、辻であり、中川であり、高橋だ。

彼女たちは、「ダメだったらどうしよう」という不安よりも、「こうなったら最高だ」という希望の方がまさる。中川がよく言う「オモロ!」が象徴するように、それぞれが面白がっている。明確な意思を持ち自立している。明日YMCAで開かれる若者対象の探査報道ワークショップも、9月12日にある映画「燃えあがる女性記者たち」の監督とのトークイベントも、9月28日が初回の「タンサユースナイト」も、全て彼女たちが中心だ。私がボーッとしている間に、どんどん事が進んでいく。

彼女たちを見ていると、私がファンだった故・樹木希林さんが、死生観について語った言葉を思い出す。「一切なりゆき 樹木希林のことば」(文春新書)から引用する。

「面白いわよねぇ、世の中って。『老後がどう』『死はどう』って、頭の中でこねくりまわす世界よりもはるかに大きくて。予想外の連続よね。楽しむのではなくて、面白がることよ。楽しむというのは客観的でしょう。中に入って面白がるの。面白がらなきゃ、やってけないもの、この世の中。」

もちろん、面白がるだけで乗り切れるものではない。探査報道を主軸とした活動である以上、危険な取材を伴い、常に緊張感の中に身を置いているからだ。住まいにしても、女性記者たちには家賃補助を出してセキュリティーの高い物件に住んでもらっている。

でもだからこそ、彼女たちの面白がる力が大切だ。日本は今、かつてないほどの閉塞感に覆われているが、それはしかめっ面の男性社会の帰結だ。

風穴をあけるのは、面白がる女性たちだと思う。

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