編集長コラム

たとえ業界は落ち目でも(79)

2023年09月30日21時46分 渡辺周

FacebookTwitterEmailHatenaLine

YouTubeで発信する報道番組「デモクラシータイムス」に、Tansaのメンバーが出演するコーナーが二つある。一つは、その時々のTansaのシリーズを解説する「探査報道最前線」と、その月のTansaの活動を紹介する「今月のTansa」だ。中川七海と私が出演した「フライパンが危ない!隠された令和の水俣『PFOA』」は現在95万回視聴。100万回突破に届く勢いだ。

収録の準備中、中川や辻麻梨子が、デモタイを主宰する山田厚史さんと交わす会話が面白い。2人が手がけている取材について一生懸命説明していると、山田さんは「ふん、ふん」と耳を傾け、一言二言で的確にアドバイスをする。山田さんはジャーナリスト歴50年以上で敏腕、私も若い時から「鋭い記事を書く人だな」と尊敬している。彼女たちにはいい刺激になっているようだ。

今週木曜日の収録でのこと。山田さんが、中川と辻に触発されて言った。

「たとえメディア業界が落ち目にあっても、それでも自分はジャーナリストになるんだという若者が、これからの日本のジャーナリズムを創り上げていくんだろうね」

山田さんは朝日新聞に1970年代に入社している。今に比べれば、新聞やテレビといったマスコミ業界が人気職種だった時代だ。給料が良く、華やかに見える業界につられて入社した若者がたくさんいた。そういう人たちの中には、商社や官庁も同時に受験していた人たちもまざっていた。

それが今や、マスコミ業界の人気は凋落している。特に経営難の新聞社は人気がない。入社しても自分が30代になるまでその会社が存続しているか危ぶまれる。私は学生から「メディア志望なんですけど、どこに行けばいいのか分からなくて」という声をよく聞く。

しかし、だからこそ本当にジャーナリストになりたいのかどうかが試される時代なのだ。山田さんの言葉に私は共感する。

Tansaを志望する学生は、人気凋落の新聞社よりもずっと少ない。長期にわたる経済的な安定を、今のところは約束できないから当然と言えば当然だ。だがそれでもやるというのが中川であり、辻だ。先日は、ジャーナリスト志望の若者がTansaの門を叩いた。近く、本人から所信表明がある。

辻が「誰が私を拡散したのか」の15回目の記事をリリースする作業をしていた時のことだ。突然「絶対に許さん!」と、加害者への怒りをあらわにした。辻のことは学生インターンの時から知っているが、あんな感じで激しい言葉を口にするのを聞いたのは初めてだ。私は少し驚くと共に、頼りになるジャーナリストになってきたなと嬉しかった。

編集長コラム一覧へ