この年末、高校のラグビー部時代からの親友と酒を飲んだ。創刊当初からマンスリーサポーターとして応援してくれている。高校を卒業して私が新聞配達所に住み込みで浪人生活を送っていた時は、「ピンチの時は狼煙をあげてSOSを知らせろ」というメッセージと共に、私の好物である納豆を送ってくれた。これまでの人生では、私の方が世話になることが多かった。
社会人になってからも折に触れて会ってきた。思い出話に花を咲かせるだけではない。彼は消防の仕事に献身しているのだが、互いに打ちこんでいる仕事のことを真剣に語り合う。
先日ふたりで飲んだ時は、ある提案をしてくれた。
「悪い相手の追及はTansaの主な仕事だから続けるとして、Tansaの取材力を生かし、普段は目立てへんけど頑張っているすごい人を発掘して紹介するのはどう? おるところにはおるで」
なるほどな、と思った。
有名人が何を言うかに多くの人が一喜一憂している中で、たとえ無名で目立たなくても黙々と他者のために奮闘する偉大な人たちはいる。私の身近を見渡しただけでも何人か思いつく。こういう人たちが事態を変える推進力になる。
まちばの社交場として賑わうカラオケスナックは、40年以上続いている。2時間3000円で飲み放題、歌い放題、スタッフ手づくりのカレーもおかわりできる。消費税が上がっても料金据え置き。何より集う人たちが作り出す雰囲気がいい。幸せな気分になる。マスターは地元で「レジェンド」と呼ばれている。
資金もスタッフもカツカツなのに、入居した高齢者を生き生きと蘇らせるグループホームもある。スタッフ全員が入居者に敬意を払い、笑顔を絶やさない。その徹底ぶりはまさにプロ根性だ。
いるところにはいるのだ。
前進の理由
Tansaは2023年、前進することができた。
「公害PFOA」では、2021年11月にシリーズを始めて以来、中川七海が世界的大企業のダイキンを追及。今年はついに、医師や科学者、市民がダイキンの責任を問うべく1000人規模の疫学調査を大阪で始めた。
シリーズ「誰が私を拡散したのか」では、子どもの性的虐待画像までが、ビジネスの対象となり、ネット上で拡散されている実態に辻麻梨子が奮闘。今月、米AppleのCEOであるティム・クック氏に、犯罪の温床となっているアプリをApp Storeから削除するようメールを出した。当該アプリは削除された。世界を席巻する大企業を動かしたのだ。
安定した運営のために不可欠なマンスリーサポーターは、まもなく500人に達する。前年比1.5倍を毎年達成していこうという目標なのだが、実現の手応えが出てきた。
こうした成果が出たのは、「いるところにはいる」人たちの力が結集したからだと思う。
給料が出せなかった創刊当初、業界の先達から「こんな組織で誰が働きたいと思うのか」と説教されたことがある。おっしゃる通りで返す言葉がなかったものの、その後Tansaには「一緒に理想のジャーナリズム組織を作っていこう」というメンバーが集ってきた。
「日本には寄付文化がない」ということも言われてきた。私自身、口にしてしまった。だがマンスリーサポーターや折に触れていただく寄付、テーマごとのクラウドファンディングが続々と集まり、Tansaは来年2月で丸7年を迎えることができる。寄付文化があるかどうかよりも、Tansaの仕事に共鳴してくれる仲間が「いるところにはいる」ことが大切なのだ。
Tansaメンバー一同、来年も「いるところにはいる」人たちとの出会いを楽しみにしている。
編集長コラム一覧へ12月1日から、新たに記者を雇用するためのマンスリーサポーターを募集するキャンペーンを始めています。月2000円のマンスリーサポーターが200人いて、若手を1人雇用できます。助成金は一度きりの場合が多く、若手を継続して雇って育成するにはマンスリーサポーターの支えが必須です。何卒、マンスリーサポーターの登録をよろしくお願いいたします。ご厚意は決して無駄にしません。
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