編集長コラム

「コップの中の嵐」の外では(96)

2024年01月27日13時19分 渡辺周

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能登半島の被災地を取材してきた。「大本営」から発表するアナウンスとは裏腹に、岸田政権は人命救助活動で重大な過ちを犯していると確信した。

1月2日午前9時23分から、官邸4階大会議室で開かれた「非常災害対策本部会議」。岸田文雄首相は関係閣僚の前で「被災者の救命救助は時間との勝負。特に建物の倒壊等による被害者は一刻も早く救出する必要がある」と言った。

ところが、自衛隊の投入は2日までに1000人、3日は2000人。救助のための統合任務部隊は1万人で編成していたのに、地震から3日目でも5分の1しか投入しなかった。

救命活動が成功するために重要な72時間は、そうして過ぎていった。初動の遅れは明らかだ。

木原稔防衛大臣は、道路が地震で損壊したことが救助活動の妨げになったと釈明して、初動の遅れを否定。1月7日付の毎日新聞の記事「自衛隊派遣、増員が容易でない背景/能登半島地震と熊本地震の差」には、脱力する自衛隊幹部の匿名コメントが載った。

「陸の孤島と言われている半島での未曽有の震災。一番起きてほしくない場所で起こった」

この自衛隊幹部は現場に行った上でコメントしているのだろうか。

私とインターンの古波津優育(こはつ・ゆうすけ)がレンタカーを借りて現地を走ると、七尾市、穴水町、輪島市、珠洲市など被災地までたどり着けた。道路がめくれ上がったり隆起したりしている箇所も随所にあったが、徐行で避けながら通れた。使った車はホンダのフィット。普通の乗用車で行けたのだから、自衛隊の車両なら問題ないだろう。現地で自衛隊の車両を間近で見た古波津は「おお、強そう」と言っていた。

市街地はもちろん、道すがら全壊している家屋があちこちにあった。爆撃を受けたような状態だ。建物の下敷きになった人や、土砂に埋もれている人を救い出すためには、とにかく人員が多い方がよかったはずだ。

土砂崩れやトンネルの崩落で通行できない道路もあった。

それでも、ヘリが着陸できる広い土地はグラウンドや競技場など随所にあった。海岸沿いの被害が大きかったのだから、海からどんどん上陸する方法もある。

そもそも、他国やテロリストからの攻撃に備えるのが自衛隊だ。半島を攻撃された時はどうするつもりなのだろうか。道路事情のせいにして、半島の住民を見捨てるのか。

建物の倒壊や火事で壊滅的な被害を受けた石川県輪島市の市街地(2024年1月23日、撮影=渡辺周)

自衛隊の最高指揮官は首相

被災地では自衛隊員たちが懸命に活動していた。しかし、いくら現場の隊員が頑張っても指揮官に能力がなければ目的を遂げられない。72時間という時間との闘いがある中では尚更だ。

自衛隊の最高指揮官は総理大臣だ。自衛隊法第七条で定められている。岸田首相は一人でも多くの命を救うことに、全身全霊を捧げるべきだった。

しかし、岸田首相にとっては自身の政治生命を守ることの方が重要なようだ。自民党の裏金問題による自身への影響を、いかに食い止めるかに必死だ。派閥を解消するとかしないとか、有権者にとったら選挙で派閥に投票できるわけではない。不毛だ。

マスコミ各社は「権力闘争」をドラマチックに報じることに必死だ。

私にはどこが権力闘争なのか分からない。あいつは嫌いだ、こいつは落ち目だと挙動不審になって右往左往している集団の揉め事にしか思えない。

権力闘争には本来、理想を実現するために力を手に入れたい者たちが争うという側面がある。それが岸田首相以下、今の自民党の政治家たちには感じられない。

結局、「コップの中の嵐」なのだ。コップの中で溺れて、外では本物の嵐に見舞われている人たちがいることに思いが至っていない。

能登半島での救命活動の初動については、さらに取材を重ねて詳報する。

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