Tansaのインターンたちが、それぞれ自己紹介を書くことになった。アドバイスがほしいと言われているが、悩ましい。探査報道の技術ならば、具体的に教えられる。だが自己紹介ほど難しいものはない。
経歴や肩書きを連ねるだけなら簡単だ。自分の学歴やこれまでの肩書を披露する人はよくいる。名刺の裏に、兼任している役職をいろいろと書き込む人もいる。
しかしそういう自己紹介はゲンナリする。「で、結局あなたはどんな人?」とツッコミを入れたくなる。
自己紹介が難しいのは、自分では自分が見えないところにある。
デモクラシータイムスの収録終了後、中川七海から「笑いをこらえるのに必死でした」と言われたことがあった。中川は私のとなりで収録に臨んだのだが、私の口元にお菓子のかけらがついていたという。その状況で、私は熱っぽく探査報道について語っていたわけだ。
自分では自分が見えないという制約からは、誰もが逃れられない。相手に矢印を向けている間は細かいところまで気づいても、自分には矢印を向けることすら難しい。私自身がそうだ。これまで文章やスピーチで、数々の自己紹介をしてきたが失敗の方が多い。「ずいぶん調子に乗っていたな」とか「感傷的になり過ぎた」とか反省点ばかりだ。
それでも自分に矢印を向けて、内省するしかない。「年を重ねても、環境が移ろっても変わることはない」と思える自分の芯は何か。心を平らかにして、自分で自分を取材する。インターンたちには、そう助言しようと思う。
私が朝日新聞で記者としてのスタートを切ったのは2000年だ。この年の新入社員は174人。記者として働く編集職は102人だった。それぞれが社内報に自己紹介文を寄稿した。私は「理想」というタイトルで書いた。
ニンニクが、大好きです。
疲れた日はもちろん、ろくな働きがなかった日でもボリボリ食って、無駄にパワーをつけています。ただニンニクは、曲者。いいことばかりじゃありません。やつのせいで、翌日異臭騒ぎは起こるし、下痢もします。
「理想」は、そのニンニクのようなもの。生きる力、進歩の糧になる。でも周囲に鼻をつままれること、眼前に否応なく突きつけられる「現実」に消化不良を起こすこともある。
ニンニク君を大切に。
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