今年の2月1日で、Tansaは創刊9年目に入る。これまで電通、製薬会社、警察、自民党、自衛隊、Google、官邸など大きな政治・経済権力を持つ相手に探査報道で対峙してきた。
今年は、もっと踏み込む。権力の反撃に備えなければならない。
Tansaは「論より証拠」で勝負する。取材で事実を掴み相手に提示する。論であれば「そういう考え方もありますね、それは推測ですね」でかわされてしまう。だが事実を突きつけられれば、相手は逃げられない。権力側にとっては脅威になる。
しかもTansaは小さな報道機関だ。新聞社やテレビ局のように、何千人という社員がいて、何千億円という収入があるわけではない。権力側が「うっとうしい連中は今のうちに潰しておけ」と実力行使に出ることは十分にあり得る。
年明け早々、全員ミーティングを開いた。渡辺、辻麻梨子、中川七海の専従者だけではなく、学生インターンとボランティアスタッフの面々、今春から専従として加入する2人も参加した。
捜査機関をはじめとした権力機構からどうやってTansaを防衛するか。情報源の秘匿、取材で得た情報管理の方法、顧問弁護士の喜田村洋一さんと詰めておくこと、渡辺が身柄を拘束された場合の意思決定のプロセス、組織内から崩れていかないためのチーム結束の重要性・・・。最悪の事態を招かないための方法と、最悪の事態が起きた時の備えを洗い出しては吟味した。
新年のおめでたい雰囲気はなく、みな緊張の面持ちだった。
身につまされる「ハンター」への強制捜査
安倍晋三政権の只中、元内閣情報調査室長の大森義夫さんから忠告を受けたことが忘れられない。内偵取材していた案件があり、東京・虎ノ門のカフェで会ったのだが、取材の合間に言われた。
「メディアが弱すぎる。君たちがしっかり権力を監視しなければ、権力側に身を置く者は安心して権力を行使できない」
新聞やテレビがジャーナリズムに即した役割を果たさないことで、安倍政権のタガが外れていると怒っていた。「ジャーナリスト魂の原点に還るべきだ」と言っていた。大森さんは警察官僚出身で、警視庁の公安部長など権力の中枢を歩んできた人だ。同業者のジャーナリストからではなく、彼から警鐘を鳴らされたことにハッとした。
しかし、安倍政権の後も権力のタガは外れっぱなしだ。暴走のスピードはむしろ加速している。マスメディアが権力監視の使命を捨て、組織の存続に汲々としている様を嘲笑うかのようだ。
2022年12月16日には、敵基地攻撃能力の保有などを明記した「安保3文書」を閣議決定、6日後には原発の新規建設を閣議決定した。
メディアへの攻撃も起きている。
例えば昨年、福岡が拠点のネットメディア「ハンター」の事務所が、鹿児島県警から家宅捜索を受けた。県警内の不正を社会に問おうとした内部告発が端緒であり、ハンターは県警の内部文書を掲載し報道機関としての役割を果たしただけだ。そもそも公益通報者保護法に則るべき案件であり、法を無視して強制捜査を行うとは、もはや法治国家の捜査機関とは言えない。
小さなメディアが権力に切り込むとどうなるか。Tansaにとっては身につまされる事件だった。
その他にも、タガが外れた権力の所業を挙げれば枚挙にいとまがない。どうしたら権力の暴走を食い止めることができるだろう。
所属組織や立場、世代や国籍に関わらず、民主主義を貫きたい全ての人たちが力を合わせるしかない。私はそう思う。
韓国では戒厳令が出た時、結集した市民の力で跳ね返した。日本でその話題になると「日本じゃ無理だな、市民社会にそんなエネルギーはない」と言う人が多い。確かに現状を踏まえれば、納得してしまう見方だ。
だがそれでも、日本社会は変われる。Tansaはそう信じることから、2025年を始める。