ジャーナリズムを創る

SNS時代のデマに対し「探査報道が答え」/上智大でシンポ開催

2025年03月21日15時53分 佐々木紘子

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私は昨年から、学生インターンとしてTansaに加わった。きっかけは2022年。ロシアによるウクライナ侵攻を報じるジャーナリストの姿を見て、報道の必要性を知ったことだ。自分も報じる側になりたいと思った。

だが、今の報道機関は役割を果たせているのか。SNSには「メディアを信じてはいけない」という投稿がある一方、出所のわからないデタラメな情報も溢れている。偽情報だと思っても、繰り返し目にすると信じそうになる自分もいた。誰もが、何が正しいのかわからなくなっている。

こうした状況に対抗する術はないのだろうか。昨年12月20日、上智大学で開かれたシンポジウムがヒントになった。

テーマは、ネット時代に調査報道はどうあるべきか。ゲストはTansaの渡辺周編集長、毎日新聞論説委員の日下部聡記者、成蹊大学の伊藤昌亮教授だ。上智大学総合グローバル学部のトビアス・ヴァイス准教授が、司会を務めた。ゲストの発表と、パネルディスカッションが行われ、会場には約40人の参加者が集まった。

原発を宣伝してきたマスメディア

福島第一原子力発電所の事故報道が、マスメディア不信の一つのきっかけだと指摘するのが毎日新聞の日下部聡氏だ。日下部氏は記者として、情報公開制度を駆使した調査報道や、ネット世論を意識したデジタル報道に取り組んできた。

世論調査によると、2011年から2012年にかけてマスメディアに対する信頼が低下した。ネット上では、「既存メディアは原子力ムラに取りこまれている」「政府と癒着していて本当のことを言えない」という意見が広がった。実際、「経験したことのない出来事について、読者が持つ疑問や関心に応えるほどの報道をしなかった」と日下部氏は言う。

2012年、日下部氏はマスメディアと原発の関係を検証した。

取材の結果、テレビや新聞が原発の安全性を謳う広告やCMを掲載してきたこと、毎日新聞の記者が電力会社の資金調達に関する政府の審議会に参加していたことがわかった。その後、原発増設は加速した。「政策決定 マスコミ関与」という見出しで記事を書いた。不信の種は、確かにあった。

教科書に「商業主義に走りやすい」

だが若い世代にも、マスメディアへの拒否感が広がっている。

日下部氏が高校で、出前授業を行なった時だ。学生たちに「マスコミと聞いて思い浮かべる言葉は何か」と尋ねた。するとこんな答えが返ってきた。

「マスゴミ」「しつこい」「怖い」「心のないやつ」「人の不幸をみんなに広める」

集まった約90の言葉のうち、ネガティブな言葉が3分の1を占めた。10代の生徒たちは、実際に新聞を読んだり、テレビを見たりしている人は多くないはずだ。なのに、「最初から拒絶されている感じがした」と日下部氏は言う。なぜだろうか。

詳しく聞いてみると、テレビやドラマを通じて「迷惑なマスコミ」というイメージを抱いていた生徒もいた。一方で、日下部氏は「公共」の科目で使われる教科書にこんな記述を見つけた。

マスメディアの多くは民間の営利企業であり、商業主義(コマーシャリズム)に走りやすく、(中略)低俗で刺激的な欲求を満たす情報や、誇張した表現でスキャンダル情報を好んであつかう扇情主義(センセーショナリズム)も指摘される(清水書院『私たちの公共』)

教科書には、ジャーナリズムという言葉は使われていなかった。

「エリート」への抵抗

「マスメディアに対する不信や、『ネットの方が信用できる』という風潮は今に始まったことではない。2000年前後から、一つの社会運動として実践されてきた歴史がある」と話すのは、成蹊大学教授の伊藤昌亮氏だ。

マスメディアに対する不信について、ネット上の動向を研究してきた。

始まりは、インターネット掲示板の「2ちゃんねる」だ。2ちゃんねるのユーザーは、マスメディアを自分たちとは異なるエリート集団とみなし、デマやヤラセがあると「検証」を始めた。

その一例に、伊藤氏はNHKが制作したドキュメンタリー番組をあげた。番組の内容は、障害のある子が詩を書く、というものだ。これが掲示板のユーザーのターゲットとなり、全国各地で開かれた検証のための鑑賞会には、何十人もが集まったという。番組はヤラセだと決めつけられ、ネットユーザーらはその内容を本にして出版までした。

しかし検証の範囲は、ネット検索や映像の視聴だけだ。当事者に取材をするわけではない。

「すぐに手に入る情報を集めて、コンテクストは自分たちで作ってしまう」

2010年代になると、反マスメディアは金儲けと結びついて加速していった。情報の正確性や優劣より、人々の関心が高いものが価値を持つ「アテンションエコノミー」の始まりだ。まとめサイトやYouTubeでマスメディアを批判すれば、注目を集めて金を稼げる。

2020年代からは、YouTubeで政治家の演説などをテロップ付きで短くまとめ、大量に投稿する「切り抜き動画」。最大60秒のショート動画も人気を博し、SNSが莫大な影響力を持つようになった。

「最強の取材者になる」

ネットの影響力が強くなっても、ジャーナリズムにしかできないことがある。伊藤氏は、ネットの問題点を「専門知より集合知が評価される」と指摘した。彼らによるマスメディアの検証は、統計や図表、オンライン上にある公開情報を使ってしか行われない。だから内容が歪になる。

対するジャーナリストの調査報道は、データだけではない。現場に足を運び、人に会って、地道に事実を集めていく。

例えば、毎日新聞の日下部氏は、ネットで注目される話題とジャーナリストだからこそできる取材を組み合わせた。

桜を見る会の疑惑を一つずつ丁寧に検証した『汚れた桜』、安倍晋三元首相の銃撃現場を、当時の写真や動画を組み合わせて検証した特集「10秒の死角」などの調査報道を手がけた。

Tansaの渡辺周編集長は、「Tansaの実践こそが答え」と言う。Tansaの「探査報道」の柱は、権力監視と隠された事実の暴露だ。それはジャーナリストにしかできない仕事である。

そのためには、「『最強の取材者』を目指すことに尽きる」と渡辺は力説する。最強の取材者に求められることはスキルとガッツだ。

Tansaの報道シリーズ「公害PFOA」では、記者の中川七海が汚染原因であるダイキンの内部情報をとったり、当時の井上礼之会長に直撃取材をしたりして、徹底的な追及をしている。その結果、これまで隠蔽されてきた汚染の実態を浮き彫りにした。

報道のインパクトを高めるには、企業や職業の枠を超えたコラボレーションも大切だと渡辺は言う。Tansaは昨年、性的画像の売買の実態に迫る「誰が私を拡散したのか」のシリーズでNHKと共同取材した。取材結果はNHKスペシャルで放送され、多くの視聴者に届いた。

大量の情報が刷り込まれる恐怖

私自身も、情報との向き合い方に悩んでいた。

兵庫県知事が再選を決めた昨年の選挙期間中、SNSでデマやメディア不信を煽る投稿を目にした。恐ろしかったのは、投稿を信じてしまいそうになる自分がいたことだ。それらはSNSに繰り返し、大量に流れてくる。たとえデマのような情報でも、何度も目に入ると、刷り込まれていくような気がした。

同時に、鵜呑みにすべきではないと考える自分もいた。SNSで「これが真実だ」と発信する人のほとんどは匿名だ。その情報は、どこから得たものかもわからない。だとしても、自分で何が正しい情報かを検証することもできない。悶々とスマホを眺めていた。

1行を書くために

しかし、希望はあると感じている。探査報道は、どこまでも広がるメディア不信やフェイクニュースに対抗できるものだからだ。

Tansaのシリーズ「自民支えた企業の半世紀」では、大企業から自民党への半世紀にわたる献金の実態を報じた。私も昨年夏、データ作りに加わった。

企業は、自民党に献金することで政府から莫大な受注や優遇を受けてきた。私が調べたのは、大手軍需企業の戦闘機や艦船、燃料など装備品の受注額だ。各年の防衛省の資料には、受注額が大きい上位20社の金額や内訳が記載されている。暑い盛りに国会図書館に通って33年分の資料を集め、データをパソコンに打ち込んだ。

その結果Tansaは「各年のトップ20社の受注額は、33年間の合計で36兆4182億円だった。」と記事に書くことができた。

一見、地味な作業だが、この積み重ねが探査報道につながっていると実感した。時間も根気もかかる仕事だ。

それでも私は、事実を明らかにし発信したい。それは、確かな事実に基づいた社会を作るためであり、スマホを見て悶々とするだけだった自分自身のためである。

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