編集長コラム

「大したことない病」を排す(5)

2022年04月11日21時55分 渡辺周

Tansaでは毎週水曜日の20時から、取材技術を学ぶ勉強会を開いている。私がテーマを設定する時もあれば、若手メンバーが日々取材をする中で「これを学びたい」と思ったことをリクエストすることもある。今週の水曜日はメンバーからのリクエストで「ニュースの切り口」がテーマになった。

ニュースの切り口は様々だ。だがそのことを考える前に、私が強調したのは「大したことない病」に陥らないことの大切さだ。斜に構えて「大したことない」とスルーしていたら感性が磨耗し、いくらニュースの切り口を知っていても役に立たないからだ。

この病にかかった事例として、摂津市役所記者クラブを挙げた。

Tansaの中川七海がシリーズ「公害 PFOA」で報じている通り、摂津市議会は3月29日、ダイキン淀川製作所による汚染への対応を求め、国に対する意見書を全会一致で可決した。

大阪維新、自民、共産、立憲民主など普段は対立している各党が、この問題に関しては一致団結した。明らかにニュースである。

ところが、摂津市役所記者クラブに加盟するマスコミ各社はこのニュースを報じない。「大したことない」と判断したのだ。記者クラブの部屋は市役所の2階にある。議場は3階だ。それでも足を運ばなかった。議場には、PFOAに曝露した市民が、意見書の可決を固唾を呑んで見守っていたにもかかわらず。

なぜ「大したことない病」にかかるのか。

それは受け身で仕事をするからだ。摂津の記者クラブに所属する記者の場合は「ウチだけ取り上げてダイキンに文句を言われたらどうしよう」「まだTansaしか報じてないから、スルーしても上司から怒られることはないだろう」といったところか。事を荒立てず、平穏無事に過ごしたいのだ。「大したことない」と確信しているというよりは、そう思いたいのだろう。

「誰のために仕事をするのか」がはっきりしていれば、「大したことない病」にはかからない。摂津の例で言えば、Tansaは中川をはじめ「ダイキンによるPFOA汚染で被害を受けた人」のために仕事をしている。だから事を荒立てるし、議会で全会一致した意見書が可決された時は旅費を惜しまず出張し、全会派の議員にインタビューした。

4月4日には摂津市民が、健康調査とダイキンの情報公開を求めて1565人の署名(1343人分は摂津市民)を市長に提出した。

地方自治法では、有権者の50分の1の署名を集めれば住民投票ができることになっている。摂津市の有権者数は6万9000人だから、50分の1は1380人だ。今回集まった署名がいかに多いかが分かる。

Tansaは市民の声を「大したこと」として受け止め、引き続き「公害 PFOA」を展開していく。

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