編集長コラム

マスコミが「Tansa」の5文字を載せぬ理由(13)

2022年06月05日13時11分 渡辺周

Tansaのシリーズ「虚構の地方創生」で、その無駄遣いを追及した地方創生臨時交付金が、5月30日の参院予算委員会で審議された。立憲民主党の蓮舫議員がTansaの報道をもとに質問し、岸田文雄首相の「国としてもしっかり検証する」という答弁を引き出した。Tansaの報道が国会で取り上げられるのは、「強制不妊」、「製薬マネーと医師」、「五輪組織委」、「公害 PFOA」に続いて5回目だ。

予算委員会での審議を受けて、マスコミ各社も地方創生臨時交付金を取り上げた。その中でも、交付金をクローズアップして報じた社は以下だ。

テレビ朝日

日本テレビ

TBS

朝日新聞

東京新聞

ところが各番組、記事とも「Tansa」のクレジット(名前)は全く出てこない。蓮舫議員は質疑の中で「Tansaというジャーナリスト集団が調べているので、合わせて詳しく調査した」と明言している。無駄な事業についてのフリップ、政治家や記者に配布した資料にも、Tansaのクレジットを入れている。

東京新聞にいたっては、「蓮舫議員の質疑に本紙の取材を加えた」という体裁で、1面トップだ。見出しは「シャンパンタワー 公用車購入・・・」「コロナ対策 ?」「地方交付金 首相『しっかり検証を』」。Tansaの報道内容と丸かぶりだ。

私は、記事が掲載された5月31日、かねてから知り合いである東京新聞の大場司編集局長にメールをした。

大場さま

こんにちは。

今朝の東京新聞の1面トップの記事は、昨日の蓮舫議員の予算委員会での質疑を元にしたものでした。蓮舫議員はTansaの報道に基づいていることを質疑の中でも明言していますし、資料の中にもTansaのクレジットを入れています。ツイッターでもその旨、発信しています。

ところが、Tansaのクレジットが東京新聞には載っていません。望月衣塑子さんに至っては、ツイッターで「野党のチェックがなければ、無駄遣いはなくならない」というコメントと共に東京新聞の当該記事をPRしています。

東京新聞以外の報道もTansaのクレジットは入っていません。「追っかけ」取材でのマスコミの悪しき慣行に、Tansaはこれまで何度も東京新聞を含め悔しい思いをしました。蓮舫議員が元にした報道のため、地方創生臨時交付金事業のデータベース作りや出張で、どれだけの労力と資金がかかっているか理解されていますか?Tansaが資金も人も不足する中で取材をしていることはご存知の通りです。

こんなことをしていては、独立した探査報道メディアは日本では育ちません。今回ばかりは見過ごさず、クレジットを入れずに取り上げた各社の社長に抗議文と、いつまでこんなことを続けるのかを問う質問状を送ります。

大場さんには以前からお世話になっています。このような悪しき慣行を良しとする方だとは思っていません。今朝の記事がTansaの報道を参考にしていたことを、紙面の中で改めて報じるよう編集局長として担当者にご指示いただきますようお願いします。渡辺拝

大場編集局長からは、その日のうちに返信が来た。記事を書いた記者とデスクに、経緯を確認していると述べた上で次のように書いてあった。

「いうまでもなく、公正な報道は、事実関係だけではなく、その事実をだれが調査したのか、何に基づいているのか、出典なり、根拠を明記するべきです」

「質問内容の事実確認は記者がするべき最低限の行為であり、それをもって自ら調べたとは言えません。蓮舫議員がTansaの調査に基づいて政府をただした、と書くことが公正で正確な報道です」

「本日の記事が公正な報道だったのか、いわゆる後追報道についても、局内で問題提起したいと思います」

真っ当な見識だ。だが、その後「局内での問題提起」がどうなったのかはわからない。6月3日、その点をメールで尋ねたが今のところ返事がない。

こちらは、報酬を要求しているわけではない。ただ「Tansa」の5文字を入れることを求めているだけだ。それができないというのは、「功名心病」という病におかされているとしか思えない。他メディアに「抜かれた」と認めたくないし、あわよくば自分の手柄にしたいのだ。相手がTansaという小さなメディアなら尚更だろう。セコすぎる。

この病は根が深い。

例えば朝日新聞。Tansaのクレジットを入れなかったのは、今回が初めてではない。国民の100人の1人に当たる人数のDNAを警察が採取し、データベースを作っていたというTansa(当時ワセダクロニクル)の記事を後追いしたが、クレジットを入れず1面トップで報じた。ネットの記事ではわざわざ朝日の「独自」と銘打った。

Tansaが報じたのは2019年9月。朝日の記事は2020年8月だ。その間の2019年11月、Tansaは警察のDNAデータベースを問題視するシンポジウムを開いたが、当該記事を書いた朝日の記者はシンポに来ていた。記事を出した翌日には「あれから9ヶ月、ようやく掲載できました。また勉強させてください」とメールが来た。私に連絡してきても、朝日の記事にクレジットが入っていなければ意味がない。

朝日新聞の当時の編集局長である坂尻信義氏と、東京本社版編集長の岡本峰子氏あてに私は「クレジット明記についての申し入れ」文を送った。海外メディアでは、自社の報道に先行するスクープには敬意を表し、スクープしたメディアのクレジットを入れていることも書いた。

広報部から返ってきた回答に、ズッコケそうになった。

「ご指摘の本紙記事は、ワセダクロニクルの特集と扱うテーマに重なる部分はありますが、いずれも本紙が独自に取材し、報じたものです。ご理解賜りますよう、お願い申し上げます」

NGO「国境なき記者団」が5月に公表した2022年度の「報道の自由度ランキング」で、日本は71位だった。その一因に、メディアの寡占状態を挙げている。

「日本では、伝統的なメディアの方がネットメディアよりも影響力がある。主流の新聞とテレビ局は日本の5大メディア・コングロマリットによって所有されている。読売、朝日、日本経済、毎日、フジサンケイである」

このような中で、小さなメディアの仕事をなかったことにするような行為を繰り返せば、独立メディアの立ち上げに挑戦する人はいなくなる。日本社会は、マスコミという恐竜が滅びゆくのを目撃するだけで、マスコミに代わるジャーナリズムの担い手を失う。Tansaだけの問題ではない。

今回の地方創生臨時交付金の問題で、Tansaのクレジットを入れずに報道した社には社長宛てに抗議文と質問状を送る。結果はまたお伝えする。

 

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