編集長コラム

ナメきった取材対応の公務員たち(14)

2022年06月13日14時50分 渡辺周

大阪府の吉村洋文知事に抗議文を出した。「公害 PFOA」の取材対応に関する抗議文だ。地方創生臨時交付金の報道でTansaのクレジットを出さなかった件では、東京新聞、朝日新聞、TBS、日本テレビ、テレビ朝日の各社の社長に抗議文を出したばかり。「なんだか最近、抗議文ばっかり出してるなー」とTansa編集部ではちょっとうんざりだが、仕方がない。闘わなければ何も得られない。

経緯はこうだ。

参議院環境委員会で4月28日、大阪府内でのPFOA汚染についての審議があった。Tansaの報道を受けて、共産党の山下芳生議員が追及した。山口壯環境大臣は「大阪府の知事さんがどういうふうな政治をされておられるか、しっかりと議論していただきたい」と答弁した。

ならばとTansaの中川七海は吉村知事に取材を申し込んだ。だが秘書課からの返答は、吉村知事に代わって担当課が取材を受けるというもの。中川と私は6月3日に府環境農林水産部・環境管理室事業所指導課を訪問した。

取材対応にあたったのは、事業所指導課の萩野貴世子課長、窪田剛主査、深江健吾技師の3人だ。

取材の中で、私たちは最も重要な点で、大阪府とダイキンの見解が違うことを質した。具体的なことは近日中に始まる「公害 PFOA」の第2部で報じるが、要は大阪府が「Aだ」と言っていることに対して、ダイキンはTansaの取材に「Bだ」と全く違う回答をしているのだ。一体どちらが正しいのか。事業所指導課側は答えた。

「ダイキンも大阪府と同じ見解のAです」

えっ? ダイキンはTansaに2回にわたって「B」と文書で回答している。私たちは、大阪府からダイキンに見解を確かめるよう要請した。驚いたのは、大阪府側の返答だ。

「いや、ダイキンは大阪府と同じ見解の『A』と思ってはりますって。改めて確認する必要はありません」

なぜ確認もせずに分かるのか。事業所指導課なんだから、電話の1本でも入れて確認することはできるだろう。「ダイキンさんも大阪府と同じ気持ちやんな、Tansaには嘘を言ったんやろ、信じてるで」とでも思っているのか。

事業所指導課の3人は頑としてダイキンに確認しようとしない。3人の中で最も若そうな深江技師は沈黙し、窪田主査と萩野課長は逆ギレ気味だ。肝腎要のポイントで事実確認ができないので、私たちは事業所指導課に取材対応を任せた吉村知事に抗議文を出すと伝えて取材を打ち切った。

PFOAの件では、環境者と摂津市にも対面取材をした。抗議文は出していないが、いずれも酷い対応だ。何人も担当者が出てはくるが、聞いたことに対してまともに答えない。公務員として、汚染地域で暮らす人たちのために仕事をしようという意識がまるで感じられない。

このような公務員たちの取材への対応は、個人差はあるにせよ、日本全国総じていい加減だというのが私の実感だ。権力側として「何が何でも悪事を隠蔽したい」というような動機ではなく、ただめんどくさい、何事もなく終わってほしいというだけの態度だ。

だが公務員のこのような態度は、取材する側にも責任があると思う。形勢が決まり、相手が「水に落ちた犬」の状態になれば一斉に叩きまくるが、普段は借りてきたネコのような記者が多すぎる。

ベテラン官僚が私に言ったことがある。

「昔はまだウルサイ記者がいて、記者会見やレクで政策の穴を指摘してくれたもんだ。おかげで当初よりいい政策になっていくということがあった。記者と対峙するために、データや理屈をしっかり準備するという効果もあったな。こちらにしたら『今日もアイツいるよ』って感じで気が重くなるんだけど、それが記者の仕事だしああいう緊張関係は必要だよ。記者が劣化すればこちらも劣化する」

摂津市役所の担当課を取材した後「何であんないい加減な対応しかしないんでしょう」と中川は心底不思議そうに尋ねてきた。私は「そりゃあ、記者が真剣勝負してないからだよ」と答え、2階にある記者クラブに行ってみようと提案した。PFOA汚染に関して、市民が署名を集め、市議会は全会一致で国に要請書を出し、国会でも審議された。それでもマスコミ各社が報じない理由を聞きたいと思った。

ソファーセットやテレビがある記者クラブには、誰もいなかった。6社分の席の上に「議会だより」が配られているだけだった。

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