編集長コラム

スポンサー新聞社が「五輪汚職」を追及 ? (26)

2022年09月17日19時46分 渡辺周

東京五輪・パラリンピックの汚職事件報道が過熱している。記者クラブを拠点にする新聞各社は、東京地検特捜部の動きをべったりマーク。いつものように「明日わかることを今日報じる」トクダネ合戦に躍起だ。今日9月17日の朝刊では、次のように報じている。

読売 「竹田前JOC会長聴取 東京地検 元理事職務  確認か」

朝日 「利益供与『贈賄になる』 『角川会長認識』契約前に元室長説明」

毎日 「ADK介在 口利き疑い 組織委元理事『パーク24』契約巡り」

日経 「元理事に選定依頼 複数回か KADOKAWA元専務ら」

産経 「元理事、ADKにも便宜か 広告大手 パーク24契約巡り」

情報源は「関係者」としか書いていない。何の関係者かも不明だ。何らかの関係者であることは当たり前で、読者をバカにした表現である。それでもこの表現しかできないということは、特捜部のリークだと私は疑う。捜査当局が、自分たちの捜査を優位に進めるため、記者クラブ所属の記者を使ってリークすることはよくある。

全国紙はすべてスポンサーに

捜査機関のチェックという本来の仕事を放棄した報道合戦をするよりも、五輪汚職の背景と構図を追及することの方が重要だと私は思う。同じことが今後の五輪で起きないようにする必要があるからだ。

1984年のロサンゼルス五輪以来、五輪は商業路線をひた走り、その重要な役割を電通という世界的な広告代理店が担ってきた。受託収賄の罪に問われている東京大会組織委の元理事、高橋治之容疑者は電通で同時代にスポーツビジネスを築き上げた。電通では専務にまでなった。

東京大会では、電通が組織委の専任代理店となった。「スポンサー企業は1業種1社」という従来の原則を崩し、スポンサーを募った。この異例の措置により、東京大会のスポンサーは81社に上った。

スポンサーは4ランクに分かれている。「ワールドワイドパートナー」が14社、「ゴールドパートナーが」15社、「オフィシャルパートナー」が32社、「オフィシャルサポーター」が20社だ。汚職事件の遡上にあがっているAOKIとKADOKAWAは、最も下のランクのオフィシャルサポーターである。

Tansaが入手した電通グループの内部資料によると、企業が東京大会のパートナーになるための契約金は、ワールドワイドパートナーで1社数百億円から1千億円、オフィシャルサポーターでも10億円から30億円だ。五輪ビジネスには巨額の利権が生まれることを表している。

東京大会でピークに達した五輪利権が、今回の汚職の温床となったのだ。

しかし、新聞社がこの利権構造に切り込むことはできない。新聞社自身が東京大会のスポンサーになったからだ。読売、朝日、毎日、日経が「オフィシャルパートナー」、産経と北海道新聞が1ランク下の「オフィシャルサポーター」だ。

全国紙の営業担当者によると、慣例通りの1業種1社ならば読売新聞だけがスポンサーになるはずだったが、異例の措置により、他社も入ったという。報道機関として、本来ならば新聞社は他企業よりも五輪利権とは距離を取るべきだ。経営難の中で「貧すれば鈍した」のだろう。

「弱い」ことより深刻なこと

新聞社は東京大会を追及できないということを、実感した時がある。

無観客試合が決まった翌日の昨年7月9日、大会組織委とスポンサー企業はミーティングを開いた。Tansaがその議事録を入手したところ、電通出身の組織委幹部は「この3週間で感染状況が悪くなるとは想定していなかった」と発言していた。コロナの感染拡大で開催反対の声が高まる中でのことだ。

Tansaは、この日以外に開かれた組織委とスポンサー企業との議事内容もスクープした。いずれも、電通が主軸となっている組織委の運営能力と責任感に疑問を投げかけるものだった。Tansaのスクープは国会でも取り上げられた。

しかし、新聞社は沈黙した。新聞社はスポンサーとして、組織委とのミーティングに出席している。出席したのが記者でないにしても、議事内容は容易に把握できたはずだ。それでも沈黙したのは、「報道機関としての新聞社」ではなく、「五輪ビジネスに参入した企業としての新聞社」を優先させたからではないのか。

五輪汚職を巡っても、スポンサーだった新聞各社が、汚職の構造そのものをえぐることに腰が引けてしまうのは不思議ではない。東京地検特捜部の後ろをついていきながら、特捜部の情報を先んじて報じるのが精一杯だろう。

経営面では汚職を生む経済利権に取り込まれ、編集面では捜査当局に取り込まれる。日本の新聞社が深刻なのは、権力に対抗する報道機関として弱いからではなく、権力の一員になってしまっていることだ。

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