飛び込め! ファーストペンギンズ

性暴力のはびこる社会で(22)

2023年01月25日16時58分 辻麻梨子

1月14日と15日に、全国で大学入試共通テストが行われた。その数日前から、Twitter上には「共通テスト当日は痴漢チャンスデー」などという投稿が相次いだ。大切なテストに遅刻することを恐れ、被害者が通報をしないはずだというのが「チャンス」の理由だ。

こうした投稿を受けて、鉄道会社や警察は痴漢撲滅のための見回り強化や、啓発ポスターの掲示を行った。世の中が卑劣な犯罪を防ぐために動き出したのは良いことだ。だが共通テストの時期に限らず、性暴力は日常的に起こっている。

私自身もこれまで、数えきれないほど嫌な思いをしてきた。

高校時代、通学電車では痴漢にあった。新卒で入社した会社では、夜中に呼び出されたり、性的なからかいをされたりするセクハラにあった。社内では問題のある言動が行われていても、咎める人はいなかった。

こうした被害は、私の身にだけ起こっているのではない。友人が痴漢に遭ったと泣きながら登校してきたことがあった。別の友人は帰り道で、見知らぬ男に追いかけられたことがあった。そしてシリーズ「誰が私を拡散したのか」で報じているように、多くの女性と子どもの性的動画が、知らないうちに拡散され、売買されていた。

今の社会で性暴力は日常風景なのだ。多くの場合、周りは傍観している。そのことが「痴漢チャンスデー」などという発想が生まれる証左なのだと思う。

しかし私は取材を通して、立ち上がる人たちの存在を知った。

ある人は、自身の経験に苦しみながらも、新たな被害をなくしたいと話をしてくれた。私の書いた記事をSNSでシェアしてくれる人もいた。SNSでの発信は広がり、「これはひどい」と憤ったり、加害者を通報しようと呼びかけたりする動きにもつながった。

これは加害者たちが何より恐れていることだ。5回目の記事で報じたように、彼らはTansaの記事を読んでこう言っている。

「僕らとしてはあの記事がね、バズったりとかなんかして、社会問題になって、警察も動かざるを得ない状況になるのがいちばん最悪やとは思うんで」

シリーズの取材費を募るキャンペーンには、現時点で142人から支援が集まっている。とりわけ勇気づけられたのが、支援者からの応援メッセージだ。他人事ではなく、社会の問題としての怒りが込められていた。いくつか紹介したい。

「こんな状況は許されない。広く世間に知らされないといけない。 誰でも被害者になりうる。マスコミ、警察、巨大組織を動かすまで、厳しい闘いだと思いますが、追及の手を緩めずお願いします。応援します。」

「絶対に許せない 陰湿で卑怯な犯人達の素性を暴きだしてほしい。 妨害が予想されますが、どうか安全に、挫けずに、世の中を動かす一歩になって欲しいです。 なけなしですが思いを託します。」

Tansaに対する期待が込められたメッセージもあった。

「日本に独立型調査報道が根付くかどうかは,Tansaの活動成果如何にかかっていると思っています。」

「この連載を機に、社会が少しでもいい方向に変わることと、調査報道の大切さが広く認知されることを願います。」

私はこうした人たちと一緒に性暴力に立ち向かっているのだ。今もメッセージを読み返している。

「記事がたくさんの人の未来を変えられると思います。」

その言葉が期待した未来を実現できるよう、闘い続ける。

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