編集長コラム

ジャーナリストが先か寄付者が先か(48)

2023年02月25日17時22分 渡辺周

語り合う中で、ハタと気づくことがある。今日の13時から開いたYouTubeライブ「持続可能な探査報道ニューズルームとは」がそうだった。

ライブはTansaが2月で創刊7年目を迎えたのを機に開いた企画だ。これまでの失敗も踏まえつつ、Tansaが持続可能なニューズルームとして発展していくためにはどうしたらいいかを探った。メーンメンバー全員が思いの丈を語り合った。

前半で私は韓国のニュースタパの成功事例と、Tansaの現状との比較をした。マンスリーサポーターはタパが4万人に対して、Tansaは300人超。韓国に比べて、日本には寄付文化も市民社会のエネルギーも希薄な点を背景として挙げた。

だが他のメンバーが取材と運営を兼ねる苦労や、その苦労が徐々に実り出してサポーターが増えていることを語っているのを聞いて、自分が言ったことに少し嫌気が差した。司会役の辻麻梨子に最後の一言を求められた時は、前半での発言とは逆のことを言った。

「『日本には寄付文化がない』とか、『市民社会のエネルギーがない』とか環境のせいにする前に、『ここまでやるなら、応援してあげよう』と思ってもらえるよう、まず自分たちが頑張る必要がある」

創刊前、寄付文化が希薄な日本ではTansaのような試みは無謀だということはいろんな人から言われた。周囲の大半はそういう意見だった。母からは「あんた怖いことするねえ」と心配された。

だがそうした声よりも、背中を押してくれる声に私は力を得た。例えばTansaの顧問弁護士の喜田村洋一さんと出会った銀座のバーのママからは、こう言われた。他のお客さんが帰って2人で飲んでいた時のことだ。

「誰になんと言われようと、たとえひとりになっても僕はやるんだという強い気持ちを持つのよ」

ニュースタパ代表のキム・ヨンジンさんも背中を押してくれた一人だ。キムさんに「お金はついてくるから、まず記事を出して創刊しろ」と言われたことを、私は「韓国のような寄付文化は日本にない、キムさんに騙された」と笑い話にすることがあるが、今でも感謝している。今月上旬の韓国出張でキムさんには3年半ぶりに会った。Tansaが私を含め4人の専従スタッフに給料を払えるようになったことを、キムさんは心から喜んでくれた。

もちろん、「頑張ればなんとかなる」というような精神論ばかり言っているようではあまりに無責任だ。その時々の社会状況を見極めながら、組織を存続させるための算段をつけることが重要だ。

しかし原点は、まず自分たちがジャーナリストとして覚悟ある行動を示すことだ。環境が整ってから自分の身を投じるような相手に、誰が自分の大切なお金を寄付しようと思うだろう。

今日のイベントは以下から視聴できる。

https://www.youtube.com/watch?v=fDo6TnwHzhA

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