編集長コラム

毒まんじゅう(51)

2023年03月18日20時20分 渡辺周

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Tansaで仕事をしていて辛いのは、ほっとけないと思っていることの取材に着手できないことだ。着手はしたが、一向に進まない場合もある。犠牲になった当事者から取材の進捗を聞かれる時は、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

原因は単純で、人手不足だ。「あれだけの探査報道を一体何人でやってるんですか」と質問されることがよくあるが、私を含め4人。ただでさえ膨大な取材量を必要とする探査報道に、運営業務も加わるので首が回らなくなる。

ともに取材にあたる仲間を増やせればいいのだが、雇うお金がない。最近は「Tansaで記者をやりたい」と言ってくれる人が増えていてありがたいが、今は実現しない。

喉から手が出るほど資金がほしい中、「いい話」が転がり込んでくる時がある。

昨年11月、Googleの資金援助を得られるチャンスがあった。デジタルファーストの報道機関を成長させようというプログラムで、プログラムの担当者によると、Googleが「硬派なニュースを支援したい」ということでTansaを指名したという。いい話だ。

ところが問題があった。その月は、ネット上で性的な写真や動画を同意なしに拡散させる「誰が私を拡散したのか」を始める予定だったのだ。初回の見出しは「知らぬ間に写真と動画が『性的商品』に/アプリが10万超ダウンロード/Google・Appleが支える『地獄の構図』」。Googleは動画を投稿するアプリを提供し、利益を得ていた。被害者には子どもまで含まれる。

しかも、担当の辻麻梨子がGoogleに責任を問う質問状を送っても、昨年11月の時点で無視していたし、今も無視している。日本法人社長の奥山真司社長も広報も逃げ続けている。こんなところから資金を受けるわけにはいかないし、追及しなければならない。断った。

これまでも、「毒まんじゅう」の誘惑は何度もあった。Tansaの前身であるワセダクロニクルが創刊する準備段階でもあった。そのたびに手はつけなかった。

Tansaはいつでも金欠だから、お金は本当に大切だ。周りから「そんなカッコつけて大丈夫?潰れちゃうよ」と言われることもあるが、お金の苦労なら当事者である我々が一番身にしみている。なんでもかんでも資金獲得のチャンスを見送っているわけでもない。Tansaの編集方針への介入を受けないことを見極め、独立性が担保できる場合は感謝の意を持って資金の提供を受けている。

しかし、毒まんじゅうはだめだ。たとえ一時の空腹を満たしたとしても、すぐに体調を崩し死に至る。組織の継続のためにと思ってやったとしても、社会からの信頼を失い、かえって死期を早める。信頼を築くのには時間がかかるが、失う時は一瞬だ。

だからこそ、Tansaの活動に共感してくれる仲間の支援が貴重だ。この仲間を地道に増やしていくことが一番大切だということを、Tansaのメンバーは共有している。

辻麻梨子は最近、Googleを追及しなければならない新たな情報を掴んだ。何の遠慮もいらない。晴れ晴れと闘う姿を応援してほしい。

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