NHKのクローズアップ現代が4月10日、「追跡“PFAS汚染”暮らしに迫る化学物質」を放送した。PFASは有機フッ素化合物の総称で、Tansaが報じている毒性物質PFOAもその一種だ。
放送終了後、イヤホンをつけて視聴していた中川七海が「あかんわ、これ」と言って深いため息をついた。私も帰宅してから録画でみた。「だめだこりゃ」と思わず口走った。
Tansaが2021年11月にシリーズ「公害PFOA」を始めて以来、汚染源としてのダイキン工業の責任を追及してきた一方で、マスコミはダイキンの名前を伏せてきた。例えば今年の1月31日付の朝日新聞の朝刊一面は「工場などが汚染源になっていると指摘される」という書き方だ。
その点、クロ現ではダイキンの社名を出した。これまでのマスコミの報道に比べれば前進だ。ところが、理解に苦しむ報じ方をしていた。
「主な汚染源と考えられているのが、空調機器の大手メーカーダイキンです」
「NHKはついに社名を出したんだ」と聞き流した視聴者も多かったと思うが、私はひっかかった。「考えられている」と受け身の表現をしていて、誰がダイキンを「主な汚染源」と考えているか分からないからだ。何よりNHKはどう判断しているのか。
汚染源について、Tansaが各当事者に取材した結果は以下だ。
ダイキン
「ダイキンの淀川製作所が汚染源の一つであることは間違いない」(当初の「汚染源の可能性の一つ」から変化)
大阪府
「主な汚染源はダイキンの淀川製作所」
摂津市
「大阪府の見解に倣う」
環境省
「大阪府の見解に付け加えることはない」
京都大学の研究チーム
「2004年からの調査でダイキンの淀川製作所が汚染源であると特定」
以上の取材に加えTansaは、淀川製作所から敷地外へのPFOA大量漏出を裏付けるダイキンの内部資料を入手した。Tansaとしてはダイキンが日本一のPFOA汚染を引き起こした張本人だと判断している。
なぜ、NHKはダイキンが汚染源であることを、自分たちの責任ではっきりと伝えないのか。
主語を省いたあいまいな表現はマスコミがよく使う。例えば「あり方が問われる」という表現は、この10年の各紙の報道で約900件あった。誰が問うのか、記事の執筆者自身は問わないのか。要するに責任回避である。
新聞社の場合は、広告をくれる企業を忖度しているのかもしれない。経営基盤が弱って批判相手から訴訟を起こされるのが怖いのかもしれない。
だがNHKはCMがないから、企業に忖度する必要はない。法的義務を根拠に徴収する受信料に支えられ、当面は潰れる心配もない。何を恐れて腰が引けているのか、私には全く理解できない。
編集長コラム一覧へ