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復興特別所得税、1270億円がすでに防衛費に使われていた

2023年06月21日15時48分 渡辺周

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防衛費増額の財源を確保するための法案が2023年6月16日、成立しました。岸田文雄首相が目指す防衛費増額の財源として、東日本大震災の復興費も「転用」する方針です。復興財源は、所得税の増税で捻出してきました。課税期間も延長される見通しで、税負担をさらに上乗せし、防衛費を賄う算段です。そもそも防衛費増額の必要性に関する説明は不十分で、議論も深まっていません。納税者を騙し討ちするような行為を、政府と自民党はなぜ平然と実行しようとするのでしょうか。

実は、復興予算は2011年度から2015年度にかけて、その一部が防衛費に使われていることがわかりました。岸田首相の防衛費増額方針に合わせて新たに出てきた案ではなく、すでに実行したことを再びやろうとしているのです。

予算が執行されたのは、計15事業で総額1270億円超に上ります。重機関銃を備えた装甲車、有事に作戦部隊を送るための輸送機、自衛隊施設の改修など「それが被災地の復興と何の関係が ?」と突っ込みたくなる事業が目白押しです。税金の使い道に関わる、モラルが崩壊しています。

戦後政治の大きな転換点となる、防衛費の増額。その財源に、東日本大震災の復興費の「転用」が検討されている。しかしTansaは2011年度から2015年度にかけて、既に復興予算が防衛費に充てられていたことを明らかにした。納税者を騙し討ちにするような行為が、なぜまかり通るのか。本記事は2022年12月に配信した記事の抜粋です。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。

「弾道ミサイル攻撃への対応」が9事業

Tansaは、防衛省が東日本大震災復興特別会計を使った15事業をピックアップした。国の5000事業の予算の使い方を調べられるデータベース「JUDGIT !(ジャジット)」をもとにした。ジャジットは、Tansaが政策シンクタンクの構想日本、日本大学文理学部の尾上洋介研究室、データの可視化が専門のVijualizing.JPと共同制作した。

さらに、各省庁が決算をもとに作成している「行政事業レビューシート」で15事業を精査した。震災関連の費用にも関わらず、関係する計画に「防衛計画大綱」と「中期防衛力整備計画」の双方を挙げている事業が、15事業中14事業あった。当てはまる政策・施策に「島嶼部に対する攻撃への対応」を挙げているのは10事業、「弾道ミサイル攻撃への対応」は9事業あった。記事末尾に一覧表がある。

写真はNBC偵察車。12.7mm重機関銃を備えている(陸上自衛隊HPより)

レビューシートに「東日本大震災」の記載がなく、復興費用と何の関係があるのか全くわからない事業もあった。下記の表で「甲類(その他)(防衛省所管計上)」とある事業だ。

この事業では、「NBC偵察車」を22億6000万円をかけて7台購入した。1台あたり3億2,300万円の計算だ。

陸上自衛隊のホームページによると、NBC偵察車とは、放射性物質(N=Nuclear)、生物兵器(B=Biological)、有毒化学剤( C=Chemical)などで汚染された地域での偵察を目的に開発された。陸上自衛隊の最新鋭の装備だ。12.7ミリの重機関銃もついている。

NBC偵察車を買った目的について、レビューシートを作成した当時の三島茂徳・艦船武器課長と田中利則・防衛計画課長は次のように記している。

厳しさを増す安全保障のもと、防衛力の整備を着実に推進し、各種事態等(島嶼部に対する侵略、ゲリラや特殊部隊による攻撃等)への対応力の向上等を図る。

防衛省報道室「想定事態にゲリラや特殊部隊による攻撃」

ゲリラや特殊部隊からの攻撃に備えるため「NBC」偵察車を買うことが、東日本大震災の復興となんの関係があるのだろう?

しかも、この支出の根拠を示す「計画・通知等」にはこう書いてある。原文のまま、〈 〉内はTansa。

平成26年度〈2014年度〉以降に係る防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(平成26年度〈2014年度〉〜平成30年度〈2018年度〉)  (平成25年〈2013年〉12月17日国家安全保障会議決定・閣議決定)

閣議決定とは、内閣総理大臣以下閣僚が出席した会議で決められた政策のことだ。行政府における最高の意思決定の手続きである。

このNBC偵察車は、第2次安倍内閣(2012年12月26日〜2014年8月18日)の全閣僚が承認した日本の防衛計画のもと、購入されたことになる。レビューシート、つまり国民向けの説明文書には、東日本大震災で被災した地域の復興のために購入したという記述はない。

この点を防衛省の報道室に尋ねる質問状を出すと、こう返ってきた。

「東日本大震災において、自衛隊が保有する化学防護車では、中性子線の測定ができないため、今後起こり得る原子力災害に備えて、放射線環境下における対処能力向上に資する装備品の整備が喫緊の課題であると認識されました。広域にわたって放射線汚染地域の状況を迅速に偵察することができるNBC偵察車の調達を行ったところです」

では、三島艦船武器課長と田中防衛計画課長が記した「島嶼部に対する侵略、ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応」という目的はないのか。その点も問うと、次のように回答してきた。

「使用が想定される事態には、原子力災害に加え、島嶼部に対する攻撃、ゲリラや特殊部隊による攻撃等も含まれます」

2012年11月27日の復興推進会議決定の末路

復興予算に関しては、震災翌年の2012年に各省庁の流用が問題となった。総理大臣の野田佳彦氏以下、当時の民主党政権の閣僚らでつくる「復興推進会議」は11月27日、流用を防ぐために使い道を厳格化すると決定した。

それまでは復興税の使い道は3項目だった。

①被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策

 

②被災者の避難先となっている地域や震災による著しい悪影響が社会経済に及んでいる地域など、被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復旧・復興のために一体不可分のものとして緊急に実施すべき施策

 

③上記と同様の施策のうち、東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策

この日の復興推進会議決定では3項目のうち、①の人々の生活や暮らしの再生だけを計上することを原則とした。

野田首相は決定にあたり、次のように述べている。

「復興関連予算については、被災地の復興に最優先で使ってほしいという声に真摯に耳を傾けなければなりません。このため、被災地が真に必要とする予算はしっかりと手当てしつつ、それ以外については厳しく絞り込んでいく」

与党が入れ替われば、納税者との約束は破棄されてしまうのだろうか。

事業名開始年度終了年度政策・施策名事業概要執行金額合計
通信機器購入費(陸自)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
1 駐屯地の通信設備及び駐屯地間を結ぶ通信回線構成機器を整備し、広域かつ大容量の通信を確保する。
2 陸自ヘリ等の航空機を運用するために必要な誘導装置及び気象観測器材等の通信機器を購入し、安全な航空機運用に資する。
3 東日本大震災において損傷した通信器材損傷復旧により、被災時においても活動しうる基盤を再構築する。
161億9510万円
自衛隊施設整備(防衛省所管計上)20122015東日本大震災により損傷した有事の際に活動の拠点となる庁舎、災害派遣活動に使用する物資などを集積する整備補給施設等を復旧する。376億900万円
乙類(通信器材)(防衛省所管計上)201120141-(1) 周辺海空域における安全確保
1-(2) 島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3) 弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4) 宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5) 大規模災害等への対応
1-(6) 情報機能の強化
防衛計画の大綱等に基づき、我が国の地理的特性等を踏まえつつ、災害対処能力等を向上させるため、各種無線機等の通信器材を整備しているところである。この中で、災害派遣活動等の即応・実効的対処能力向上を目的として、器材の耐用期限到来に伴う減耗等に対応するため、所要の通信器材を整備するものである。222億3800万円
航空機修理費(海自)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
1 次期輸送機の導入に必要な整備補給態勢を構築するため技術検討を実施する。
2 東日本大震災に伴う任務により、各種航空機において計画飛行時間を大幅に超えて運用したため、減耗した補用部品を確保する。
110億8900万円
通信機器購入費(海自)(防衛省所管計上)201120141-(1) 周辺海空域における安全確保
1-(5) 大規模災害等への対応
東日本大震災への復旧・復興等の任務に従事した艦艇、航空機等の装備品の機能回復を図るために必要な器材等の整備を行う。66億1400万円
部隊等における教育・訓練に要する経費(防衛省所管計上)201120143-(1)二国間・多国間共同訓練・演習の実施
4-(1)訓練・演習の充実・強化
東日本大震災により被災した装備品等の復旧を図るものであり、自衛隊の教育訓練機関において、個々の自衛官の能力を高めることや最適な教育訓練を実施するために必要な教材・資器材の購入や部外教育委託等の経費である。60億100万円
武器購入費(海自)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
海上自衛隊における災害対処能力を向上させることにより災害派遣活動を効果的に行うため、航空機搭載用えい航式ソーナー捜索システム及びレーザ捜索システムを購入するもの。54億2200万円
諸器材購入費(海自)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
海上自衛隊における化学器材、災害派遣用車両、救命器材(航空機)、夜間捜索用需品、燃料管理装置、航空機整備用器材等の整備及び被災損傷器材の復旧等46億1000万円
乙類(施設器材)(防衛省所管計上)201220141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
東日本大震災の災害派遣活動において使用され耐命超過した乙類装備品(施設器材)の損耗更新分を整備するものである。 36億4300万円
諸器材購入費(陸自)(防衛省所管計上)201220141-(5)大規模災害等への対応陸上自衛隊が各種の任務を遂行するためには、各種の装備品等を必要とする。本事業は、震災により破損した装備品等のうち、主要装備品以外の諸器材の整備を実施して、各種事態への即応性・実効的対処能力の回復を図るものである。31億5100万円
CBRN対応遠隔操縦作業車両システムの研究20112014科学技術・イノベーション当該事業では、平成23年度から26年度にかけてシステム設計を実施するとともに、中継器ユニット、遠隔操縦装軌車両、車両搭載作業装置及び指揮統制装置を試作し、平成26年度から27年度に試験を実施した後、研究を終了する予定である。30億400万円
甲類(その他)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
防衛計画の大綱等に基づき、我が国の地理的特性等を踏まえつつ、各種事態等(島嶼部に対する侵略、ゲリラや特殊部隊による攻撃等)への対応力を向上させる甲類装備品を整備しているところである。この中で、NBC偵察車の取得を行うものである。30億円
航空機修理費(陸自)(防衛省所管計上)201120151-(1) 周辺海空域における安全確保
1-(2) 島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3) 弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4) 宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5) 大規模災害等への対応
1-(6) 情報機能の強化
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、災害派遣で航空機の飛行時間が増加する中で、中間点検及び定期整備が増加することで、交換部品が増大する。また、不具合発生に伴う非可動を防止するため、部品を取得し、安全かつ効率的に運用し得る品質を確保して、航空機の高可動率を維持する必要がある。23億3300万円
次期輸送機(C-2(仮称))の取得201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
自衛隊の任務達成に必要な航空輸送態勢を速やかに構築するため、現有のC-1の減勢を踏まえ、航空輸送力を回復・向上しうるよう、C-2を取得する。14億9030万円
通信維持費(海自)(防衛省所管計上)201120141-(1)周辺海空域における安全確保
1-(2)島嶼部に対する攻撃への対応
1-(3)弾道ミサイル攻撃への対応
1-(4)宇宙空間及びサイバー空間における対応
1-(5)大規模災害等への対応
1-(6)情報機能の強化
海上自衛隊における災害対処能力を向上させることにより災害派遣活動を効果的に行うため、P-3C型航空機搭載の赤外線探知装置の改修を実施するもの。7億7900万円
1271億7840万円

岸田首相の目指す防衛費増額の財源に、東日本大震災の復興費の「転用」が検討されている。しかしTansaは2011年度から2015年度にかけて、既に復興予算が防衛費に充てられていたことを明らかにした。納税者を騙し討ちにするような行為が、なぜまかり通るのか。本記事は2022年12月に配信した記事の抜粋です。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。

税金の使い道がわかるJUDGIT!(ジャジット)

平成元年に60兆円だった国の予算は、30年で100兆円を超えました。そこへ新型コロナウイルス対策として、さらに巨額の予算が積み増されています。無駄遣いはもうできません。自分の財布の中身と同じように、税金の使い道をチェックできないか。国の各省庁が行う約5000事業のほぼ全てをデータベースにした「JUDGIT! 」が威力を発揮します。

JUDGIT! では、それぞれの事業の「目的」「内容」「成果」「予算の支払い先」「金額」などを誰でも調べることができます。気になるキーワードや、支出先の企業・団体名での検索も可能です。

JUDGIT! は政策シンクタンクの構想日本、日本大学文理学部情報科学科の尾上洋介研究室、Visualizing.JP、Tansaの4つの団体及び個人によって共同運営されています。

詳しい使い方はこちらでわかりやすく説明しています。

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