誰が私を拡散したのか

アルバムコレクションと同じ仕組みのアプリ運営者が有罪に(18)

2023年11月23日15時43分 辻麻梨子

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(イラスト:qnel)

児童の性的虐待や女性の盗撮画像が売買されているアプリ、アルバムコレクション。私は取材の結果、アプリを管理・運営するのは、アフィリエイトサービスの会社「インフォトップ(現ファーストペンギン)」の創業者である高浜憲一と、同社の元社長である新田啓介であることを掴んだ。2人はMAX PAYMENT GATEWAY SERVICES社(以下MAX社)という会社を、シンガポールに設立していた。

高浜と新田の名前を入れて、アルバムコレクションに質問状を送ったところ、両者の名前は記さず「AlbumCollectionサポート」として「ユーザーへの注意喚起やパトロールを強化する」と回答が返ってきた。ユーザーの犯罪であり、運営側は悪くないということだ。

だが今から7年前、アルバムコレクションと同じ仕組みのアプリを運営する人物が逮捕されていた。

裁判の中で司法が認めたのは、アプリの仕組みと運営体制の違法性だ。

警視庁「もはや公然陳列の場を提供している状況」

2015年から2016年にかけて、「写真袋」と「写真箱」というスマホアプリを運営していた会社Aの代表者Bや従業員が、相次いで逮捕された。捜査を手がけたのは、警視庁・京都府警の共同捜査本部と神奈川県警だ。

この時期、写真袋や写真箱のユーザーが、児童ポルノやわいせつ画像の所持や公然陳列などの罪状で次々と検挙されていた。警察はアプリが犯罪の温床になっているとみて、運営者の捜査にも踏み切ったのだ。

児童ポルノの投稿について、アプリの運営者が摘発されたのはこれが初めてだった。運営者の逮捕を知らせる2015年12月7日付の産経新聞(東京朝刊)には、事態を重く受け止める警視庁の捜査関係者の証言が掲載されている。

「もはや公然陳列の場を提供している状況。たまたま児童ポルノが集まったというレベルではない」

横浜地裁は児童ポルノとわいせつ画像の公然陳列の罪で有罪判決を下した。Bには懲役2年6月、執行猶予4年、罰金400万円が科された。私は事件の判決文を入手した。

毎日鳴る警察からの電話

写真袋は元々、株式会社カヤックが2012年に制作したアプリだ。2013年にカヤックが写真袋を手放し、運営を引き継いだA社のB社長が有罪判決を受けた。

私はカヤックで写真袋の運営に携わっていた元社員に会うことができた。この人物は自分の関わったアプリがその後、悪用されていることに心を痛め、話をしてくれた。

2012年当時、LINEなどのメッセージアプリでは、複数枚の写真や動画を共有できる仕組みがなかった。写真袋は学生の文化祭や部活など、多くの画像を共有したいというニーズに応えるために作られた。

だが運営開始からわずか1年。2013年春頃になって状況が一変する。児童ポルノなどの違法な画像がアプリに投稿され始めたのだ。「合言葉」と呼ばれる、画像を入手するためのパスワードは、インターネットの掲示板などで広まった。

元社員は振り返る。

「警察からほぼ毎日のペースで電話がかかってくるようになりました。『児童ポルノの捜査で、ユーザーの情報を提供してほしい』というような内容でした。それも一箇所ではなく昨日は神奈川県警、今日はどこどこ県警といった具合に全国からです。社内もだんだん、タダごとではないという空気になっていきました」

カヤックは警察の捜査への協力に加え、別の会社に違法画像の監視や削除の業務を委託した。パトロールでは売上トップ20のフォルダの画像を確認したり、違法画像の投稿を繰り返すユーザーを利用停止にしたりした。

だが、アプリは2013年5月には50万ダウンロードを達成していた。次第に対応は追いつかなくなった。

「仕組みがあれだけ悪用されると、普通のアプリとして運営すること自体が難しいと感じました」

カヤックは同年10月、写真袋を手放した。

「レンタルボックスと同じ」

カヤックが写真袋を譲渡した先が、A社だ。当時の社長だったBは、アプリ内で違法な画像が取引されており、削除やパトロールなどの対応が必要であるとカヤックから説明を受けていた。

ところがBは犯罪を防止するどころか、金もうけに利用することにした。知人に対し、「写真袋というアプリを運営しており、これが儲かるのでもう一つ同様のアプリを作りたい」と相談を持ちかけていたのだ。

2014年半ばからは、似た仕組みを持つ別アプリ「写真箱」の制作に取りかかった。翌年に運営を始めると、写真袋にアップロードされていた児童ポルノやわいせつ画像などを、写真箱に誘導していった。写真袋では広告収入を得ていたが、写真箱では広告を廃止しユーザーの課金によって収益を上げた。

性的画像でもうける仕組みに変えたのだ。

しかしBは、運営側が責任に問われることはないと考えていた。ユーザーが自分で投稿するアプリの形式であることを持ち出し、別の知人にはこう説明している。

「写真袋や写真箱というアプリは、鍵がかかっているレンタルボックスのようなもの」

「中に何が入っていても、それはユーザーの責任で、管理人には関係ない」

だが地裁は、Bに有罪判決を下した。重要な論点となったのが、アプリの仕組みと運営体制だ。

裁判所「アプリがわいせつ画像投稿の動機付け」

まずアプリの仕組みだ。

写真箱では、ユーザーが投稿したフォルダに「カギ」をかけることができる。カギは有料で、フォルダを開けるのに使用されると、投稿を行ったユーザーに利益の一部がポイントとして還元される。ポイントは商品券などと交換可能だ。

この仕組みは、アルバムコレクションにも共通している。アルバムコレクションでは、カギが1個160円で販売されており、投稿したフォルダにカギが1回使用されるとユーザーに15ポイントが還元される。100ポイントで新たなカギと交換できるほか、1ポイントを1円と換算し、Amazonのギフト券とも交換できる。

Bの裁判で、司法はこの仕組みを問題視した。利益の一部を分配することで、ユーザーに有料でもダウンロードされるような画像を投稿する、動機を与えていたというのだ。

Bは控訴したが、棄却された。東京高裁も、アプリが違法画像で収入を得られる仕組み自体を改めて問題視した。

「画像等が有料でダウンロードされる都度、アップロードしたユーザーにポイントを付与し、ギフト券と交換できるようにするなどして、利益の一部を分配する仕組みを作り、有料の画像等をアップロードするユーザーに動機付けを与えていたものである。そして、多くのユーザーが有償でもダウンロードしようと欲する画像等の多くは、児童ポルノやわいせつ画像であるから、上記の仕組みは、ユーザーに対して、わいせつ画像等を有償でアップロードすることを事実上慫慂(しょうよう)する効果を有していたといえる」()内はTansa

実際、この仕組みを取り入れたことで、写真箱にはわいせつ画像が集中することになった。

2015年当時の「写真袋」のウェブサイト(ウェブアーカイブより)

通報を受けての削除だけでは不十分

運営体制も非難された。

A社はアプリを運営する中で、ユーザーが投稿する全ての違法な画像を放置していた訳ではなかった。通報を受けたものや従業員が見つけた児童ポルノなどは、削除を行なっていたという。

だが、裁判所はこの対応が消極的で不十分であったと判断した。

実際には、通報を受けたものなど以外の違法画像の有無を積極的に確認し、削除しようとしていなかったからだ。

例えば、カヤックでは行なっていた投稿の監視や削除業務などの委託を、A社はしていなかった。それどころか、カヤックによって利用を禁止されていたユーザーの、利用禁止措置を解除していたことも判明した。

アルバムコレクションでも、通報を受けて削除するケースはあるが、被害や犯罪を防止するための積極的な対応はとられてない。今も連日、ネット掲示板やSNSにパスワードが投稿されているからだ。これらには、児童ポルノも多く含まれる。

わいせつ画像に特化したアプリ

裁判所は写真袋と写真箱について、アプリ自体が、わいせつ画像などのやりとりに特化しているとも認定した。

「本件は、ほとんどが適法な画像等の中に、たまたまわいせつ画像等が紛れ込んだのを知りながら、これを削除しなかったという場合とは異なり、前記のとおり、わいせつ画像等に特化した状態に準じるアプリを運営、管理し、多数のわいせつ画像等を含む画像等を集めた上、これらを積極的に公然と陳列した場合であるから、わいせつ画像等の公然陳列の作為犯ととらえるのが相当である」

アルバムコレクションにも、裁判所のこの見方が当てはまる。

私は昨年夏の取材開始以降、アルバムコレクションで取引される画像を連日確認してきた。その状況は、違法な性的画像が紛れ込んだというレベルではない。違法な性的画像ばかりで、日常の思い出の共有などに使われた例は見た試しがない。

ユーザーの間でも、それは共通の認識だった。インターネットやSNSで「アルバムコレクション」を検索すればわかる。違法画像を宣伝する投稿や、アプリから児童ポルノを入手して逮捕に怯える相談投稿などが次々出てくるのだ。

Yahoo!知恵袋に投稿された「相談」

写真カプセルの真似

写真袋と写真箱では、違法画像を金儲けに使おうとするA社の意図は明確だった。

自社の社員に指示して、多くの人にダウンロードされお金もうけにつながる児童ポルノやわいせつ画像を増やそうと、パスワードの宣伝をしていたからだ。パスワードを投稿できる掲示板や、ユーザーがSNSでつぶやいたパスワードを自動で収集し、掲載するウェブサイトまで作っていた。

ところが悪質なこの方法は、A社が独自に編み出したものではなかった。背景にあったのは、ライバルアプリの存在だ。当時同じ仕組みを持つ別のアプリが登場し、A社は収益を奪われていた。Bはその別アプリの方法を真似して、掲示板を立ち上げたのだ。

真似したのは、「写真カプセル」というアプリだった。

写真カプセルは、高浜と新田が運営するアルバムコレクションの、アプリファイル上のコードと共通点があることを15回目の記事で報じた。アプリの情報サイトにも、写真カプセルの運営者はMAX社であると記載されていた。

つまり高浜らは、有罪になったアプリに先駆け、「写真カプセル」で違法画像を呼び込む運営を行なっていたことになる。

アプリ情報サイトに掲載されていた「写真カプセル」

シンガポールへ逃避?

写真袋・写真箱とアルバムコレクションは、類似する点が非常に多い。写真袋の運営者が検挙されていて、アルバムコレクションの運営者である高浜や新田が追及されないのはおかしい。

彼らが捜査の手を免れている理由の一つは、複数のペーパーカンパニーをつくり、追跡されにくくしていることだ。

例えばアルバムコレクションは、ウェブサイトやアプリストア上で運営会社は「Eclipse Incorporated」であると名乗っている。私たちがさまざまな証拠を集めたことで、実際の運営を行っているのは高浜が運営するMAX社だと発覚した。

もう一つの理由は、現在高浜と新田のどちらも日本を離れていることだ。高浜はシンガポールへ、新田はマレーシアへと移住したことがわかっている。私たちは2人の東京都内の自宅に行ったが、会うことはできなかった。警察の捜査も国境を越えると格段に難しくなる。

アルバムコレクションへの投稿は、今も続く。被害者の数は増え続けている。

本記事のリリース前日にも、ネット掲示板にはアルバムコレクションで児童ポルノを入手できると匂わせるパスワードが書き込まれていた

=つづく

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