誰が私を拡散したのか

【アルバムコレクション運営者を追う】始まりはアフィリエイト会社の「シナジー効果」狙い? シンガポールで直撃取材(25)

2024年05月30日17時44分 辻麻梨子

FacebookTwitterEmailHatenaLine

(イラスト:qnel)

スマートフォンのアプリ「アルバムコレクション」は、子どもや女性の性的画像の取引に使用され、甚大な被害を生んだ。Appleが運営するApp Storeの「写真/ビデオ」カテゴリでは、アプリのダウンロード数がランキング1位になったこともある。2024年1月に、すべての機能を終了した。

誰がアルバムコレクションの運営者だったのか。Tansaは、アルバムコレクションの前身である2つのアプリ「写真カプセル」と「動画コンテナ」を発見したことで、2人の人物に行き当たった。高浜憲一と新田啓介だ。

そのことは2023年秋に本シリーズで報じた

これに対して高浜と新田は2023年11月24日、代理人弁護士を通じて、Tansaに記事の削除を要求してきた。運営していたのは2020年3月までだという理由だ。それ以降は、アルバムコレクションの事業をハワイの「Eclipse Incorporated(以下イクリプス社)に譲渡しており、運営には一切関係していないという。

しかし、疑問は尽きない。

例えば、アルバムコレクションの運営をしていたのは2020年3月までだとして、なぜ犯罪の温床となるアプリをハワイのイクリプス社に売り渡したのか。

イクリプス社は活動実態が見えない。そのような会社の経営者とどうやって知り合ったのか。本当に高浜と新田は、イクリプス社と関係がないのか…。

アルバムコレクションに先行して、写真カプセルと動画コンテナの運営も行なわれていた。いずれも子どもや女性の性的画像の取引の温床だった。なぜ、同種のアプリでビジネスを続けたのか。

記事の削除要求が来た翌日、私は高浜に直接話を聞くため、編集長の渡辺周とシンガポールに向かった。

2023年11月から、Tansaはアルバムコレクションの運営者とAppleなど巨大プラットフォームに関する本連載の取材を、NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班と共同で行なっています。共同取材の成果として得た情報、撮影した映像などは双方で共有します。当該取材の結果は、6月15日午後10時~10時49分 (再放送 19日(水) 午前0時35分~1時24分)放送予定です。

シンガポールのシンボルである「マリーナベイ・サンズ」=2023年11月27日NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班撮影

高層ビル林立の中心部で

高浜は、共著である『ゴールを手にした5人の儲かるネタの見つけ方 ザ・スタート』(フォレスト出版)に掲載されたプロフィールによると、セミリタイアしてシンガポールへ移住した。だがシンガポールのどこへ行けば会えるかは分からない。現地に拠点を置くNHKのリサーチャーの協力で、高浜が頻繁に足を運ぶいくつかの場所を特定した。

シンガポールに到着した翌日の11月26日、私と渡辺、NHKのカメラマンとリサーチャーの4人は高浜が現われると予想した場所の一つに向かった。高層ビルが立ち並ぶシンガポールの中心部だ。

予定時刻より1時間ほど早く到着した。周囲がひらけた屋外だ。車で周辺を走っていると、ベンチに座る人物をNHKのリサーチャーが見つけた。高浜だ。事前に写真で確認した通りの外見だ。私は鼓動が速くなるのを感じた。

離れた場所から、高浜が一人になるタイミングを見計らう。2時間ほど待ち周囲が暗くなり始めた19時頃、渡辺と2人で近づいて声をかけた。

「高浜憲一さんですね。Tansaの辻麻梨子です。アルバムコレクションの件で、お話を聞きにきました」

高浜は少し戸惑った表情を見せた。

「今じゃなきゃだめですか」

「用事が終わった後で結構です」と答えると、高浜は「あとでそちらに行きます」と取材を承諾した。

「私は一切関わっていない」

約40分間、高浜は屋外で立ったまま取材に応じた。(発言中の()内は全てTansaが補足)

「ちょっとご連絡いただいたのは初めてなので、(急に取材と言われても)わからないです。書面ではいただいていると思いますけど、それは後から気づいて」

書面とは、私たちが2023年8月に送った質問状のことを指す。質問状では、取材の依頼もしていた。高浜からは、回答がなかった。

離れて撮影しているNHKのカメラに気づくと、高浜は「カメラは許可していない」と苛立ちを見せた。私たちは、NHKとの共同取材であることを伝えた。だが、撮影は受けられないという。話を聞くため、映像の撮影は中断した。

高浜はまず、アルバムコレクションの運営への関与を否定した。

「新田さんとも話をして、実際のところ、私たちはまったく関係がありませんので」

まったく関係ない?そんなはずはない。

高浜と新田の代理人弁護士は、2014年9月から2020年3月まで、写真カプセルとアルバムコレクションの運営を、共同または単独で行なっていたと認めている。2020年3月にハワイのイクリプス社に譲渡してからは関係がないと主張しているだけだ。

私が改めて尋ねると、今度は自分の関与を否定した。

「それは新田の方です。私は一切関わっていないので」

運営は何人でやっていたのか。

「もうほとんど一人です。新田一人です」

「ファーストペンギンが主導」

自分は関係ない、新田が単独でやっていたと主張する高浜に対して、私は「写真カプセル」の話から聞くことにした。

写真カプセルは、アルバムコレクションの原型ともいえるアプリだ。アプリは「写真カプセル」―「動画コンテナ」―「アルバムコレクション」の順番で変遷している。いずれも子どもや女性の性的画像が取引される、犯罪の温床となった。

問題は、2014年に写真カプセルの運営を始めたのが「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES(以下MAX社)」であり、MAX社を創業したのは高浜だということだ。MAX社はどのようにして運営を始めたのか。

「写真カプセルをなぜやったかというと、ファーストペンギンが、(事業を)買っているんですね。私が買ったわけじゃなくて。ファーストペンギンが」

写真カプセルは、第三者からファーストペンギンが購入した事業だったという。「ファーストペンギン」とは、アフィリエイトサービスのサイト、「インフォトップ」を運営している会社だ。

アフィリエイトとは、ネットの成功報酬型広告のことだ。広告料を稼ぎたい人が、自身のウェブサイトやブログ、SNSに企業や個人の広告URLを掲載。読者・視聴者がそのURLをクリックした場合や、URLを経由しサービスや商品が売れた場合に、収入が得られる。

ファーストペンギンはなぜ、写真カプセルを購入したのか。

「ファーストペンギンは(アフィリエイトサービスの)インフォトップとシナジーがあるということで買ったんです」

ファーストペンギンの創業者でも?

MAX社ではなく、ファーストペンギンが写真カプセルを購入したという高浜だが、矛盾がある。高浜はMAX社だけではなく、ファーストペンギンの創業者でもあるということだ。高浜の判断が大きかったのではないか。

だがその点についても高浜は、自身は積極的に関与していないと話す。

「インフォトップ(ファーストペンギン)の誰か、役員が(写真カプセルを)持ってきてやると。僕はどちらかというと、そうなんだと。わかりましたっていう立場でしかない」

「役員が入ってきた時に、自分の手柄にしたいっていうことで(購入した)。要はM&Aをしたわけですよね。ある程度収益が出ているものを、買ってみた。これで自分の手柄になるってことで、彼は買ってきた」

「多分金は出していない」

手柄を立てたいファーストペンギンの役員が、写真カプセルの購入を主導したと高浜は言う。あくまで自身の積極的な関与を否定する構えだ。

しかし、MAX社が写真カプセルの運営責任者を担っていたことはどう説明するのか。このことは、写真カプセルの過去のネット上の記録で判明している。

「運営をちょっとお願いするみたいになったんですよ。そこで新田が(ファーストペンギンから)MAXに行ったので、(写真カプセルの運営もMAX側に)行ったっていう形」

過去の求人サイトの情報によると、写真カプセルを購入した2014年当時、ファーストペンギンの社長だったのは新田啓介だ。高浜がMAX社を設立後、新田がファーストペンギンから移籍し、写真カプセルの運営を担ったという説明である。

そうであれば、MAX社は写真カプセルを購入したファーストペンギンから、写真カプセルの運営を委託されたことになる。所有権は、あくまでファーストペンギンにあるということか。

「えっと当時、一応、(購入は)連名になってますけど。ちょっとごめんなさい、そこまではね。多分、MAX PAYMENTはそこまでお金はないので(笑)、多分出してないと思います」

連名で購入したが、MAX社は金を負担しなかったという。

高浜はファーストペンギンとMAX社の創業者。新田は2014年当時のファーストペンギン社長だった。当時ファーストペンギンとMAX社は、事実上一体だったのではないだろうか。

高浜は今も、SNSのプロフィールにこう記している。

「インフォトップ/株式会社ファーストペンギン(first penguin Inc.) アドバイザー(シニア)」

ただし、後にファーストペンギンの親会社となった株式会社アエリアは、現在の高浜と新田の経営への関与やMAX社との関係を否定する。2023年8月28日に送った質問状には、代表取締役社長の小林祐介からメールで回答が届いた。

高浜氏がファーストペンギンの創業者であり、新田氏が以前ファーストペンギン社の代表取締役であったことは事実ですが、現在、両名とも当社及び当社子会社の経営には何ら関与しておりません。また、ファーストペンギン社はMAX社と何ら関係を有しておりません。

動画コンテナ以降は?

写真袋はその後、動画コンテナ、アルバムコレクションへとつながっていく。

その過程では、子どもや女性に多くの被害者を出し、刑事事件にまで発展した。

高浜と新田はどのような心境で、犯罪の温床となったアプリの運営を続けたのだろうか。

Tansaの現地取材の様子=2023年11月26日NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班撮影

=つづく

敬称略

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担して違法な性的画像や児童の性的虐待の動画などが売買・拡散され、多くの被害者を生み出しています。私たちは2022年から、被害を止めるための報道を続けています。海外出張などを含む徹底的な取材には、資金が必要です。こちらから、ご支援をお願いいたします。

誰が私を拡散したのか一覧へ