誰が私を拡散したのか

【アルバムコレクション運営者を追う】代理人弁護士がTansaに記事削除を要求(24)

2024年05月23日17時00分 辻麻梨子

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(イラスト:qnel)

女性や子どもの性的画像の拡散では、スマートフォンのアプリが被害を大きくしている。

数あるアプリの中でも、甚大な犠牲者を生んだのが「アルバムコレクション」だ。2023年12月には、Appleが運営するApp Storeの「写真/ビデオ」カテゴリで、ランキング1位になった。2位がInstagram、4位がYou Tube。いかにアルバムコレクションの利用者が多かったかが分かる。

アルバムコレクションは今年1月、運営を終了した。本シリーズで追及した末のことだ。

しかし、判然としないことがあった。

アルバムコレクションの運営実態だ。本シリーズではホワイトハッカーの協力を得て、2023年9月から11月にかけて5本の記事で報じた。それでも謎は残されていた。

例えば運営会社のEclipse Incorporated社(以下イクリプス社)。ハワイに登記されている事実は把握できたが、実際に活動しているかが分からない。アルバムコレクションやその前身のアプリに、2人の日本人運営者が存在したことも掴んだ。そのうちの1人に取材を申し込み、質問状を出したが反応がなかった。もう1人は連絡先がわからなかった。

アルバムコレクションの運営実態は、詳細に掴まなければならない。今も性的画像の拡散に苦しむ被害者がおり、運営者の責任を追及する必要があるからだ。

運営形態や仕組みがアルバムコレクションと似ているアプリも横行している。その実態を解明することで、同種のアプリやサイトの撲滅につなげる必要もある。

私はアルバムコレクションの実態を追うため、あらゆる手法で取材を続けている。ホワイトハッカーに協力を仰ぎ、途中からはNHKスペシャル「調査報道・新世紀」の取材班が合流した。共同で取材を行なっている。

その結果、アルバムコレクションの運営を通じて、イクリプス社に少なくとも年間数億円が入っていたこと、犯罪者グループの関与など、新たな事実を次々に掴んだ。

毎週木曜日の連載で報じていく。

シンガポール渡航の前日に

2023年11月24日、シンガポールでの取材に発つ前日のことだ。私はTansaのオフィスで1通の手紙を受け取った。

宛先は編集長の渡辺周と私。TMI総合法律事務所(東京都港区六本木)からの配達証明郵便だ。

開封すると、「ご連絡」と題された3ページの文書が入っていた。差出人は弁護士の寺門峻佑と上村香織。「高浜憲一」と「新田啓介」の代理人であると書かれている。

高浜は、シンガポール出張で取材する予定の人物だ。

アルバムコレクションの運営に関して話を聞くため、メールなどを通じて何度も取材を申し込んだが、返信がない。シンガポール在住という情報を掴んだので、現地で渡辺と直接取材することにしていた。渡航前日のタイミングで、弁護士を通じて文書を送ってくるのはなぜなのか。

両代理人はTansaのシリーズ「誰が私を拡散したのか」で、高浜と新田について報じている記事を全て取り消すよう求めていた。

「本書の受領後7日以内に、本連載記事のうち、通知人らを特定し得る情報(通知人らの氏名、会社名、所在地、経歴を含みますが、これらに限られません。)を含む全ての記事を削除いただきたく、要請申し上げます」

この削除要求に応じない場合の対応としては、以下のように通告してきた。

「本件を穏便に解決したいと考えておりますが、仮に貴殿らが誠実に対応しない場合には、やむを得ず、民事・刑事の両方を含む法的措置を検討せざるを得ませんので、この点念のため申し添えます」

一体どういう理由で、このような削除要求をしてきたのか。

弁護士から届いた「ご連絡」=辻麻梨子撮影

ペーパーカンパニー?

Tansaは2023年9月から11月にかけて出した本シリーズの記事で、高浜憲一と新田啓介がアルバムコレクションの運営に携わっていると報じた。

9月14日付

ハワイにペーパーカンパニー、アルバムコレクションの正体は?(14)

9月28日付

運営会社の代表者は、NITTA(15)

10月5日付

ハワイ→シンガポール→ロンドン→渋谷(16)

10月12日付

背後にいたビジネスの「カリスマ」(17)

11月23日付

アルバムコレクションと同じ仕組みのアプリ運営者が有罪に(18)

アルバムコレクションは誰が運営しているのか?この疑問が、私たちの取材の出発点だった。

アルバムコレクションのウェブサイトや、App Storeには、運営会社としてイクリプス社の名前が公表されている。代表者として「William Leal」の記載もある。

しかし、イクリプス社の正体は不明だった。

まず、会社としてのウェブサイトがない。同社の名前をネットで検索しても、他のビジネスをしている形跡はなかった。

唯一の手がかりは、米国の登記情報サイトだった。イクリプス社は、ハワイのマンションの一室に登記されていた。

ハワイで会社を設立する場合、現地に行かずに手続きを完結することができる。日本に比べ、会社設立のハードルは低い。

イクリプス社は、実質的な運営を担っていない「ペーパーカンパニー」ではないか。私たちはそう考えた。

連続性のある3アプリ

イクリプス社がペーパーカンパニーならば、真の運営者は誰なのか。

私はホワイトハッカーと、アルバムコレクションのアプリのデータを解析した。

すると、アプリのコードやGoogle AnalyticsのIDなど、アプリ内のデータがアルバムコレクションと一致するものを2つ発見した。「写真カプセル」と「動画コンテナ」だ。アプリが運営されていた時期を時系列に並べると、以下のような変遷になる。

写真カプセル→動画コンテナ→アルバムコレクション

アプリ内のデータが同じであれば、この3アプリには連続性がある。写真カプセルと動画コンテナの運営者がわかれば、アルバムコレクションの運営者にたどり着ける。

そう考え、ホワイトハッカーとさらにデータを収集。写真カプセルと動画コンテナの運営者情報を発見した。

両アプリとも「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES」が運営していた。シンガポールに本拠がある。社長を務めたのが、高浜憲一と新田啓介だった。

「アルバムコレクションサポート」からの回答

アルバムコレクションの実質的な運営者は、高浜と新田ではないか。

だが、どうやって確認すればいいのか。運営者としてアルバムコレクションのサイトに記載されているイクリプス社は、会社のウェブサイトすらなく連絡先が分からない。代表として名前がある「William Leal」も、ネットを検索した限り情報はない。

私たちは、アルバムコレクションのサイトの問い合わせフォームに質問状を送ることにした。問い合わせに対する責任部署や、担当者の名前は書かれていないが、対外的な窓口はここしかない。

運営の実態が高浜と新田にあると考え、質問状の宛名は「高浜憲一様・新田啓介様」とした。アルバムコレクションが多くの被害者を出し、利用者が有罪になる事態にまで発展していることを踏まえ、運営者の責任を問うた。

質問状では、こちらの認識に事実誤認があれば指摘することも要請した。

回答は高浜と新田ではなく、「アルバムコレクションサポート」の名で来た。

アルバムコレクションでは違法なコンテンツの送受信に関して一切認めておりません。サービスの運営に関しては特定商取引に記載の通りです。通報を受けたコンテンツに関しては24時間以内に必ず削除を行っております

また、違法なコンテンツを送受信したユーザーについては利用規約に記載のとおり情報を当局に開示しております

アルバムコレクションでは利用者への注意喚起と違法なコンテンツの送受信禁止をサービス内でお知らせし、パトロールも強化いたします

AlbumCollectionサポート

被害防止に取り組んでいると強調することで、アルバムコレクションの運営者には責任はないという主張だ。

私たちの取材結果と照らし合わせると、この主張は受け入れられない。こちらの質問にも、一切答えていない。

質問状では、こちらの認識に事実誤認があれば指摘するよう伝えていた。だが、運営者はイクリプス社の代表、William Lealであって、高浜と新田ではないと訂正していなかった。そこで、まずはシンガポールにいる高浜の話を聞こうと渡航の準備に入った。

そこへ前述の「ご連絡」文書が、高浜と新田の代理人弁護士から配達証明で送られてきた。両氏に関するTansaの記事を全て取り消すよう求めていた。

「運営は2014年9月から2020年3月まで」

代理人弁護士は文書で、高浜と新田がアルバムコレクションの運営者だったことを認めていた。

「通知人らは、2014年9月から2020年3月までの間、通知人ら共同又は新田氏単独で『アルバムコレクション』及びその前身である『写真カプセル』を運営していましたが(なお、当初の「写真カプセル」という名称は、新田氏が運営していた期間中に、『アルバムコレクション』へと変更しています。)」

ではなぜ、記事の取り消しを要請しているのか。

「2020年3月に、当時『アルバムコレクション』を単独で運営していた新田氏が、『アルバムコレクション』に係る事業を、現在の運営者である米国のハワイ州法人である運営者Eclipse Incorporated(以下『イクリプス社』といいます。)に譲渡し、それ以降は、通知人らはともに完全に運営から離れており、同アプリから何ら収益を得ておりません。」

つまりTansaが記事を書いていた時にはすでに、イクリプス社に事業を譲渡している。運営者ではないから関係ないという主張だ。次のように、Tansaの記事が与える「印象」を論じている(かっこ内はTansaが補足)。

「(Tansaの記事の)記載は、事実と異なり、本連載記事の読者に対して、通知人らが、現在においても『アルバムコレクション』の運営者であり、また、同アプリにおける『性的商品』の売買を通知人(高浜、新田両氏)らのビジネスの柱とし、児童の性的虐待映像や違法な性的画像の取引を助長しているかのような印象を与えるものです」

「被害の拡大防止に対応尽くした」

文書では、アルバムコレクションや、その前身の写真カプセルが犯罪の温床であったことも認めていた。

「一部のアプリの利用者がアプリを性的な画像や動画の取引のために用いており、犯罪行為が疑われていたことなどの事情から、警察等の公的機関や被害者の代理人等から当該利用者に関する照会を受けることがありました」

だが、そのようなことがあったとしても、高浜、新田の両氏は児童の性的虐待映像や違法な性的画像の取引を助長するようなことはなかったという。むしろ、その逆だと主張する。

「通知人ら(高浜、新田の両氏)は、いずれの照会に対しても迅速に回答し、犯罪行為が疑われる場合には、必要な情報をすべて警察に提供するなど犯罪行為者の特定や被害の拡大防止のために可能な限り対応を尽くしてきました。その結果として、一部の利用者について逮捕に至ったケースもございます」

6つの疑問

文書の内容には、大きく分けて6つの疑問が浮かぶ。

①犯罪が横行していると知りながら、なぜ仕組みの改善を試みないまま、「写真カプセル」→「動画コンテナ」→「アルバムコレクション」と同種のアプリを作り続けたのか。

②動画コンテナに関しては、文書の経緯説明の中には含まれていない。それはなぜなのか。私たちが調べた過去の記録には、確かに新田の名前が運営者として記されている。動画コンテナは、デジタル性暴力の画像を取引できることで、有名なアプリだった。動画コンテナの運営を終了する際、ウェブサイトにアルバムコレクションのリンクを掲載し、ユーザーの誘導までしていた。

③代理人弁護士は、アルバムコレクションを2020年3月にイクリプス社に譲渡したと説明する。それが事実だとして、その際に犯罪防止策を講じるよう伝達したのか。2020年3月以降もアルバムコレクションでは違法な画像の取引が続いた。

④譲渡したとして、その際の条件や金額はどうだったのか。

⑤アプリの運営に携わったと主張する期間は、約5年半。その間にアプリの運営で得た利益には、犯罪被害によって稼いだ金も含まれる。その金はどうしたのか。

⑥アルバムコレクションの問い合わせフォームに対して、質問状を送ったのは2023年8月。その際、高浜と新田を名指しで責任を問うた。だが回答してきた「アルバムコレクションサポート」は、「高浜と新田は今の運営者ではない」と訂正してこなかった。

疑問はこれだけではない。

両氏の代理人弁護士から文書が届いた翌日、私は編集長の渡辺と、予定通りシンガポール行きの飛行機に乗り込んだ。

動画コンテナに掲載されていた、アルバムコレクションへの誘導メッセージ

=つづく

敬称略

NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班と共同取材

2023年11月から、Tansaはアルバムコレクションの運営者とAppleなど巨大プラットフォームに関する本連載の取材を、NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班と共同で行なっています。

「調査報道・新世紀」は国内外のさまざまな謎や課題を、従来の”足で稼ぐ”取材と最新のデジタル技術を駆使した調査報道で迫る番組です。Tansaはデジタル性暴力が拡大し続ける構造を暴き、被害を食い止めるために連携することを決めました。

共同取材の成果として得た情報、撮影した映像などは双方で共有します。NHKスペシャル「調査報道・新世紀」の放送日は、以下の通りです。共同取材の内容は、後編にて放送予定です。

【放送予定】
調査報道新世紀 File3. 子どもを狙う 性的搾取の闇 (前編・後編)
前編 6月 8日(土) 午後10時~10時49分 (再放送 12日(水) 午前0時35分~1時24分)
後編 6月15日(土) 午後10時~10時49分 (再放送 19日(水) 午前0時35分~1時24分)

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