2024年7月26日、元共同通信記者の石川陽一氏が「報道の自由」を守るために同社を訴えた裁判で、6回目の口頭弁論が開かれた。
提訴から1年。共同通信は、石川氏の著書『いじめの聖域』(文藝春秋)の内容が長崎新聞の名誉を毀損したという主張をやめた。
共同通信側弁護士「名誉毀損の有無ではない」
共同通信は本の発売以降、『いじめの聖域』が「長崎新聞の名誉を毀損し、共同通信社の利益を害した」と石川氏を追及し、裁判でもそう主張してきた。
しかし共同通信はこれまで、自身の主張を裏付ける事実を示してこなかった。原告は、根拠となる事実をいつになったら提示してくるのか待っていた。
開廷15分前。待合室で石川氏の代理人である喜田村洋一弁護士に、Tansa編集長の渡辺周が声をかけた。「どうですか、今回の準備書面は? 」。準備書面とは、この日の口頭弁論にあたり前もって共同通信が、原告側と裁判所に提出した反論文だ。
喜田村弁護士は怒っていた。
「いやー、これどうなってるんだよ。本が長崎新聞の名誉を毀損したとか、共同通信の信用を傷つけたとか、その事実が書かれていないじゃないか」
口頭弁論が始まった。
中島崇裁判長は、共同通信から提出を受けた準備書面の内容について言及した。
「全体のまとめを書いていただいたことになります」
つまり、すでに出ている話をまとめただけで、目新しい内容がないということだ。
続いて、準備書面の内容に反論があるか否かを原告側に尋ねた。
喜田村弁護士は「反論と言いますか、前から言っておりますけど・・・」と切り出した。
「原告が書いた本が長崎新聞の名誉を毀損したとか、共同通信が信用を失ったとか、そういう事実があるとご主張になるのかならないのか。証拠をお出しになるのかどうかをお尋ねしたいと思います」
「これが『まとめ』ということで、今後、事実関係についてこれ以上ご主張されることは特にないと理解してよいのでしょうか」
喜田村弁護士からの問いかけに、共同通信の代理人である藤田雄功弁護士が答えた。丸カッコ内はTansaが補足。
「名誉毀損の有無ではなく、(長崎新聞の社としての見解を問う)反対取材をしなかったという点が落ち度というところで、『社外活動の了解取消』をさせていただいた」
「名誉毀損に関して、新たな事実の主張をする考えは持っていません」
だがそもそもの発端は、石川氏の著書が長崎新聞の名誉を傷つけたという理由で、共同通信が長崎新聞に謝罪したことだ。そのことは、Tansaが入手した長崎新聞の局長会の記録文書に残っている。
書籍の発売翌日の11月10日、共同通信の谷口誠福岡支社長が長崎新聞本社を訪れた。
長崎新聞からは、石田謙二編集局長、山田貴己報道本部長、向井真樹報道部長が応じ、「なぜ本の出版を許可したのか」、「文藝春秋に出版差し止めを求めないのか」などと質問。「長崎新聞を侮辱し、貶める内容で、事実に反している。悪意を感じる。共同通信にはしかるべき対応が必要と考える」と述べ、石川氏の社外執筆の申請書の提出をも求めた。
谷口福岡支社長は、長崎新聞社と同社記者の名誉を傷つけている部分があるとして謝罪。共同通信として問題だと捉えている箇所を複数挙げた上で、「問題の記述は石川氏の個人的な主張で共同の考えではない」「本社総務局と法務局で対応を検討している」と説明した。
共同通信は批判対象すべてに取材をしたのか
共同通信は、石川氏の著書が長崎新聞の名誉を毀損したという事実を示さない。今後は、石川氏が長崎新聞を批判するにあたって、同社の見解を取材しなかったことに焦点を当てるようだ。
だがこれも矛盾している。たとえ相手を取材していなくても、事実をもとに批判することは共同通信自身が行っているからだ。
その証拠は、第5回の口頭弁論の際に原告側が提出している。
2022年8月1日~10月31日までの3か月間で、共同通信が批判していた対象は以下の通りだ。
岸田首相、政府、統一教会、検察、関西電力、立憲民主党、ロシア、自民党議員、自民党、維新の党、プーチン、防衛省、東京都、英国のジョンソン元大統領、自衛隊、公明党、北朝鮮、佐賀県、JR、日銀、村上誠一郎議員、イタリアの極右政党、エネオスの杉森務元会長、電通、細田博之議員、三井住友FG、俳優の香川照之、始関正光裁判官、山際大志郎議員、経済産業省、習近平、中国、神戸家裁、文部科学省
共同通信は、対象者全てに直接取材をしたのだろうか。
次回期日:9月13日午後2時30分から東京地裁611号法廷
傍聴者は、回を追うごとに増えている。
この日の口頭弁論では初めて、傍聴希望者に整理券が配られた。
次回期日は9月13日午後2時30分、東京地裁の第611号法廷で開かれる。
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