イラスト:qnel
デジタル性暴力は、半永久的な人間の搾取である。
2022年から取材を始めた私は、そう考えるようになりました。
女性や子どもの性的な写真や動画が、インターネットで取引されています。始まりはたった一度の投稿でも、瞬く間に何百・何千万もの人に拡散していきます。現在の日本の仕組みでは、広がってしまった画像を完全に消すことができません。被害者は半永久的に苦しみ続けることになります。
性的画像は脅迫や詐欺、暴力と結びつきます。相手を支配したり貶めたりすることにも使われるのです。
盗撮やハッキングといった手段も使われ、誰がいつ被害者になってもおかしくない状況です。
一方で、加害者も子どもから大人まで、あらゆる人たちです。
画像の取引で得た金は、アプリやサイトの運営会社、決済会社、GoogleやAppleといったプラットフォーマーにも流れる仕組みができていました。デジタル性暴力が、巨大ビジネスに組み込まれているのです。
行政や捜査機関は事態を傍観しています。それが今、デジタル性暴力被害者が直面している社会です。
私はこの構造を切り崩し、これ以上の被害を食い止めるため、報道を続けてきました。
その一例が、児童ポルノの取引などに使われていたアプリ「アルバムコレクション」です。Appleのアプリストアでも提供され、誰でも入手が可能でした。ストアの「写真/ビデオ」カテゴリでは、ランキング1位になったこともありました。
アルバムコレクションは、2024年1月に運営を終了しました。Tansaが共同取材相手のNHKスペシャル「調査報道新世紀」取材班と共に追及した末のことです。
しかしまだわからないことが多くあります。
アプリにアップロードされていた被害者の画像は、流出させず、完全に削除したのか。
画像が取引されることで得ていた、億単位の利益は誰が手にしたのか。
実質的な運営者は誰か。
中でも運営実態の解明は重要です。運営実態がわからない限り、刑事責任や被害者への補償を果たさせることができないからです。
しかし、警察や検察はアルバムコレクションに関して、捜査しませんでした。これではアルバムコレクションの被害者は泣き寝入りです。同種の犯罪も繰り返されます。
TansaとNHK取材班は、アルバムコレクションが終了してからも取材を続けてきました。見えてきたのは、組織犯罪の可能性と、他のアプリやツールによる被害の拡大です。本シリーズ「誰が私を拡散したのか」を再開します。
シリーズ「誰が私を拡散したのか」は取材費のサポートを募っています。取材を継続するため、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
きっかけは友人の画像拡散被害
まずはおさらいをする。
2022年夏、私は友人の写真や映像がネットで売買されたことを知り、取材を始めた。
着目したのは、「アルバムコレクション」や「動画シェア」といったアプリだ。子どもが性暴力を受けている映像なども大量に取引されていた。AppleやGoogleのアプリストアに掲載され、誰もが入手可能だった。
アプリはユーザー同士が画像を投稿したり、ダウンロードしたりできるハブのような機能を備えていた。画像を有料でダウンロードすれば、投稿者とアプリに利益が入る。決済にAppleの決済システムを使用すると、Appleにも手数料が入る。
アプリをホワイトハッカーの協力を得て詳しく調べると、アルバムコレクションと、過去に作られた2つの類似アプリとの関連がわかった。運営者は高浜憲一と新田啓介だ。
2人はアフィリエイトサービスを手がける企業、「ファーストペンギン(当時インフォトップ)」の創業者と元社長である。私たちの直接取材に対し、違法画像が取引されていることを知りながら運営を続けたことを認めた。2020年には被害を防ぐための対策が不十分なまま、アルバムコレクションを別の人物に譲渡したという。
アルバムコレクションの仕組み
年間数億円の収益
新田啓介がアルバムコレクションを譲渡したという相手が、ハワイにある「Eclipse(イクリプス)」という会社だ。
ハワイの登記情報によると、代表者としてウィリアム・リールという名前があった。だが他に情報はなく、実態が見えてこない。
その間にも被害は広がる。2023年12月にアルバムコレクションは、App Storeの「写真/ビデオ」カテゴリで、ランキング1位になった。
数多あるアプリのうち、児童ポルノの取引に使われているアルバムコレクションがトップになるのは異常事態である。Tansaは同年12月15日、AppleのCEOティム・クックに宛てて、App Storeからアプリを取り下げるかどうかを迫るメールを送信。Apple は3日後の12月18日、自社のApp Storeからアルバムコレクションを削除した。
Appleの措置から2週間後の2023年12月31日、アルバムコレクションは「サービス終了」を発表した。
しかし、アルバムコレクションについて判明しているのは、運営会社がハワイにあるイクリプス社で、代表者はウィリアム・リールという人物であるということだけだ。Tansaは、2023年秋から取材に合流していたNHKスペシャルの取材班と共に、ハワイに向かった。
ハワイに赴いたことで、イクリプス社を担当していた会計事務所を取材することができた。アプリの運営に関し、Appleなどから年間数億円の売上が振り込まれていたことが判明した。
会社の設立手続きには、リールではない複数人が関わったこともわかった。
鍵を握っていたのは、ショーン・ハートという人物だ。日本と米国にルーツを持つ。日本名は小南賢(さとし)という。
イクリプス社の社長だったリールは、ハートからの依頼で会社の設立や銀行口座の開設に関わったようだ。リールの父親がそう証言した。イクリプス社の設立時に会議に立ち会った会計事務所も、ハートの顔や名前に覚えがあった。ハートがアルバムコレクション運営の中心を担ったのか。
さらに現地の報道によると、米国で指名手配されていることがわかった。窃盗や個人情報の不正利用のほか、麻薬所持の容疑に問われたが、裁判前に姿を消した。
ハートの行き先は日本だった。沖縄の米軍基地を拠点に、コカインや大麻を米国から輸入した容疑で、2021年に日本で逮捕されていた。
ここまでが、前回までの取材で掴んだことだ。

名前を変えた同じ仕組みのアプリ
これで取材を終えていいのだろうか。そうは思えない。理由は三つある。
まず私は、アルバムコレクションの運営に関わった人物が、アプリの名前や見た目を変えて運営を継続している可能性を疑っている。
2020年までアルバムコレクションの運営を続けていたと主張する新田啓介は、2014年から2020年までの間に、同じ仕組みのアプリを複数の名前で運営していた。「写真カプセル」「動画コンテナ」、そしてアルバムコレクションだ。これら全てで、違法画像を含む性的画像の取引が行われていた。
アプリを作り変えた理由は、「違法なものが増えてきたから」だと新田は言った。ところが実際には、前のアプリから次のアプリへユーザーを誘導していた。アプリが違法性を問われそうになる前に、取引の場を遷移させたことになる。新田からアルバムコレクションの譲渡を受けたというイクリプス社の関係者も、名前を変えた別のアプリでの性的画像取引から利益を上げているかもしれない。
次に、アルバムコレクションにアップロードされていた被害者の写真や動画は、完全に削除されたのかという問題がある。画像が運営者の手元に残っていれば、また拡散される可能性があるからだ。すでに拡散したものに対する責任もある。被害者への補償をすべきだ。
アルバムコレクションの問い合わせフォームに連絡しても、これらの質問に一切答えなかった。
そして、運営の実態が明らかになっていない。上記の問い合わせフォームへの質問に対する返事も、「アルバムコレクション運営委員会」名義で、責任者の名前がない。このままでは、望まない性的画像を売買できるアプリやウェブサイトは次々に作られ続ける。実際に今も同様のプラットフォームは多くあり、被害はやまない。
だから私は取材を続けてきた。
「日米の裏社会でどれだけの力を持っているか」
ハワイでの取材後、私たちはショーン・ハートの足取りを追うことにした。イクリプス社の社長として登記されていたウィリアム・リールは「お飾り」に過ぎず、ハートの方が力を握っていたのではないかと考えたからだ。リールの父親は、息子がハートに利用されたと証言した。
米国の捜査当局から指名手配を受けているにも関わらず、日本に逃亡できたのも引っかかった。ハートは誰かの協力を得られる「実力」を持った人物なのではないか。
そう考えていた矢先、ハートを知るという人物がTansaの報道を見てメールを送ってきた。
メールにはこう書かれていた。
「あなたは、ショーンが日本と米国の両方の裏社会でどれだけの力を持っているかを知らない」
=つづく
敬称略
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