保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

いじめ相談に「高校生の男子が保健室に来て泣くとかありえない」 加害生徒を指導しない長崎・海星学園(16)

2026年03月19日 11時55分  中川七海

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

福浦勇斗さんが描いたディズニーランドの絵=遺族提供

2017年11月上旬、福浦さおりの自宅を、ある人物が訪れた。

今まさに、長崎・海星学園高校でいじめを受けている生徒の母親だった。その母親は、さおりにこう言った。

「教頭先生に息子のいじめを相談したんですけど、うちの子どもの性格に問題があると言われたんです」

保護者の間で広まる噂

2017年11月20日、海星学園校長の清水政幸、学年主任の木村英夫、担任の岩﨑孝治、副担任の髙比良政則が福浦家を訪れた。

同級生からのいじめを苦に、福浦勇斗(はやと)が自ら命を絶ってから7カ月後の月命日だ。4人は勇斗の遺影に手を合わせた。

勇斗の母・さおりは、教職員たちにお参りの感謝を伝えた上で、率直な気持ちを口にした。

「息子の件は『騒ぎ立てるな』みたいな感じで、学校が指示しているのかなと思いました」

さおりは、今月頭に参加した「海星学園創立125周年記念」の祝賀会場で、親交のあった教員から「勇斗くんが亡くなった後、お母さんに連絡を取ろうとしたら、学校に止められた」と告げられた。その翌日に学校で開かれた「慰霊祭」でも、顔見知りの教員たちが目を合わせようともしなかった。慰霊祭とは、直近1年間で亡くなった学校関係者を弔う、全校生徒が参加する学校行事だ。

さおりも夫の大助も、勇斗のいじめ自死を公表したくない学校側が「緘口令(かんこうれい)」を敷いているのではないかと感じていた。

校長の清水は、咄嗟にこう返した。

「そういったことはございません」

だがさおりたち遺族は、保護者の間で広まっているある噂も耳にしていた。

海星でいじめられて亡くなった子がいるけれど、保護者の要望で騒いだらダメらしいーー

学校が、遺族の意向でおとなしくしていると言っていたーー

遺族には心当たりのない「要望」「意向」だ。さおりは言う。

「私たちは、公表されても全然平気なんですけど。逆に、事実を出していかないことには何も解決しないですし、次の被害者が出る可能性もありますからね」

武川教頭「子どもの性格に問題がある」

さおりが「次の被害者」と口にしたのには、根拠があった。

海星学園は、「校内でのいじめ自死」を隠したいあまり、勇斗をいじめた加害生徒への指導すら実施していなかったのだ。加害生徒の保護者も、我が子がいじめていたことを知らされていない。

だが勇斗のケースに限らず、海星学園は他のいじめにも対処していなかった。

1週間ほど前、さおりの自宅に海星高校に通う生徒の母親が来訪した。

面識はなかったが、今月頭に開かれた慰霊祭で勇斗の自死を知り、人づてに連絡がきた。

その母親はある日、息子がノートの切れ端に「死にたい」と書いているのを見つけた。訳を聞くと、学校で同級生たちからいじめを受けていることが分かった。日常的にからかわれたり、金を要求されて数千円渡したり。教室に居られなくなり、保健室で過ごすようになっていた。耐えられなくて、保健室で泣き出してしまうこともあった。

そこで母親は、教頭の武川眞一郎と面会した。いじめの内容や息子の状態を伝えたところ、武川から驚くような言葉が返ってきたという。

「武川教頭に、『子どもの性格に問題がある』と言われたんです」

母親は、そのようなことを言われるとは思っておらず、呆れて声にもならなかった。それでも、食い下がった。しかし武川には伝わらなかったという。

「挙げ句の果てに、『息子さんは保健室の先生が好きで甘えているだけ』、『だいたい、高校生の男子が保健室に来て泣くとかありえないし、おかしい』って言われてしまって」

武川は、頑なにいじめを認めなかった。「子どもが苦痛を感じれば、いじめである」という、法律が定めるいじめの定義にも反する言動だ。

母親は、海星学園に期待するのを諦めた。息子に「あなたは悪くない」と何度も伝え、息子も「あと少し通学すれば卒業できるから頑張る」と、耐える道を選んだ。

「第三者委員会から言われない限り指導しない」

さおりは、目の前にいる校長の清水たちに訴える。

「前から言っているように、これは犯人探しではなく、いじめで生徒が亡くなる子が二度と出ないでほしいから。いじめを無くすために、被害者も加害者も作らないために、学校としてどう向き合っていただけるのですか」

「うちの子が、いじめられていたという遺書を遺して、加害生徒の名前まで書いて。名前が出た子たちへの指導は、学校としてどうされていますか」

清水が答える。

「その件については、第三者委員会の方で聞き取りをずっとやっていますので」

さおりが食い下がる。

「第三者委員会はまだ時間がかかりますよ」

さおりの指摘通り、第三者委員会の調査には数カ月から1年以上かかる。すでに自死から7カ月が経っている上、卒業まで1年半もない。それでも清水は、こう述べる。

「かかりますけど、全部任せていますから」

さおりが確認する。

「第三者委員会の調査が終わるまでは、その子たちへの指導は何もしないということですか」

清水が答える。

「第三者委員会からそういうことを言われない限り。第三者委員会に全て任せていますので、学校としてはその方針でいきたいと思っています」

「何人死ねば向き合ってもらえるのか」

第三者委員会を利用して事実の公表や生徒への指導を先送りしようとしている学校側に対し、さおりはある生徒の事案を挙げる。

「私、知ってるんですよ。■■くん、いじめられて学校を辞めましたよね。その時にいじめていたとされる子の名前が、今回も勇斗の遺書に、加害生徒として出ていますよね。反省していないから、名前が出るんですよね」

「反省せずに、うちの子が第2の被害者として、さらに第3、第4の被害者が生まれて、それでも良いってことですか」

清水は「そういうことではありません」と否定する。

だが今まさに、海星学園でいじめが起きている。自宅に相談に来た母親の生徒も、いじめに耐えながら学校に通っている。

さおりが言う。

「確かに第三者委員会が調査中ですけど、調査を待っていたら次の被害者が出る可能性があるし、実際に『いじめられている』とうちに相談しにきた方もいるわけですから」

「次の被害者が出るまで、学校は待っているつもりですか。一人目は転校して、次は亡くなって。何人死ねば向き合ってもらえるのか、って思います」

ディズニーからの手紙

さおりの訴えに、清水は「はい、わかりました」と空返事し、立ち上がる。

帰ろうとする一行に対し、さおりが「最後にもう一点、聞かせてください」と引き留めた。

「3月に修学旅行がありますよね。積立金が返金されると聞いていましたが、半年経っても返金がありません」

突然の話題で「え?」と声を出す清水に、さおりが続ける。

「返金されないんだったら、私が勇斗の遺影を持って付いていっても構いません。私の旅費は追加で払いますので」

「うちの子、本当にオリエンタルランドに勤めたかったんですよ。修学旅行は、ディズニーランドに行かれるんでしょう。それをどれだけ楽しみにしていたか」

勇斗は幼い頃から、ディズニーの可愛いキャラクターが大好きだった。内向的な性格の勇斗がニコニコしながら、新しいキャラクターを考案したりアトラクションを設計したり。机に向かって黙々と筆を走らせる姿を、さおりたち家族はずっと見てきた。

勇斗の将来の夢は、ディズニーランドを運営するオリエンタルランドで働くことだった。倍率が高く人気のオリエンタルランドに就職するには、勉強を頑張らなければならない。そこで中学受験に臨み、海星学園に入学した。

高校2年の3月に実施される修学旅行の行き先は、東京ディズニーランドだ。勇斗は入学以来ずっとこの日を楽しみにしていた。だが、修学旅行も、将来の夢も、叶うことなくこの世を去った。

さおりは、返金目当てでこの話題を持ち出したのではない。いじめ自死の隠蔽に必死で、遺族の扱いも蔑ろにする姿勢が悔しかった。夫の大助も同じ気持ちだ。大助が言う。

「勇斗が修学旅行を楽しみにしていたけれど、亡くなってしまったことをディズニーランドに伝えたら、手紙が返ってきましたよ」

すると清水は表情を変え、「え!?」と口にした。

さおりが説明した。

「私たちが知らないところで、長男の直斗がオリエンタルランドに手紙を書いていたんですよ。勇斗は自分が作りたいディズニーリゾートの絵を描いていて、それが残っていたので送ったんです。そしたら手紙が届いて。『修学旅行に来られなくなったのは残念だった』『ディズニーのエンジニアを目標にしてくださったことを感謝している』と書いてありました」

清水は「あー、そうなんですね」。

大助が言う。

「この手紙が来て、『そういえば返金されていないな』って気づいたんです。学校からは返金もなく、随分雑に扱われているんだなと思って。一方でディズニーは、一ファンに対してこういう風にお手紙を送ってくださって。随分扱いが違うな、と。何だか悲しくて」

福浦勇斗さんの遺族がディズニーリゾートから受け取った手紙(画像の一部を加工しています)=遺族提供

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ