編集長コラム

Tansa新パンフにみる「主役」(67)

2023年07月08日15時54分 渡辺周

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Tansaの新しいパンフレット『Tansa活動案内2023-2024』が完成した。メンバーでアイデアを出し合ってつくりあげた。2017年の創刊以来、パンフの制作はこれで3度目だ。

全員の意見が一致して早々に決まったのは、編集長である私のページを巻頭から外すことだ。前回までのパンフでは、創刊経緯や私のメッセージが巻頭に載っていた。だが創刊から7年、もう次のステージへ移行する時だ。いつまでも渡辺の個人商店ではTansaに未来はない。

巻頭特集は、中川七海と辻麻梨子が手掛けた。中川は「公害 PFOA」、辻は「誰が私を拡散したのか」を取り上げ、取材過程とともにそれぞれの思いを語っている。ふたりとは、普段からいろいろ話をしているが、改めてパンフで読むと「なるほどなあ」と感慨深い。例えばこんなことを言っている。

中川七海

私には自由があります。好きなだけ取材して、どんなに大きい相手でも納得するまで質問を投げて、事実に辿り着くまで動ける自由です。それが面白いんです。ジャーナリストは本来、大変な仕事ではなく、自由な仕事だと思います。

 

辻麻梨子

日本では誰も取り組んでいないことを、一から作り上げていく毎日は面白く刺激的です。この仕事を続けるほど痛感するのは、私たちの力だけでは多くのことをなし得ないことです。

今回のパンフが力強いのは、サポーターやボランティア、顧問弁護士やアドバイザーらTansaを支える人たちの声を載せていることだ。サポーターの声から一部を抜粋して紹介する。

豊里文子さん(60代/会社員)。

Tansaの記事で初めて読んだシリーズは、「双葉病院 置き去り事件」です。Twitterでたまたま記事を見つけたのがきっかけで、読み始めると次の展開が気になって、どんどん読み進めたことを覚えています。Tansaの魅力は、社会問題を報じて終わるのではなく、読者が「これはよくない」と声をあげたくなるような報道をしているところです。

 

寺田和弘さん(50代/ドキュメンタリー映画監督)

正直、Tansaに出会った頃は編集長だけが目立っている印象でした。しかし今は違います。取材テーマの選び方や記事の書き方から、若手リポーターそれぞれのキャラが見えてきます。「探査報道」という軸以外は多様なTansaは、もっと面白くなっていくでしょう。

 

今井直人さん(20代/尼崎市立ユース交流センター職員)

Tansaは、私の目には「記事という武器で巨悪と闘うヒーロー」に映ります。未来のために、今の不正義と闘う存在です。この人たちを応援しない社会にしてよいのでしょうか。Tansaを「イイネ!」と感じる若者が増えることで、社会にとってより大きな力になると思います。

 

小野ヒデコさん(30代/フリーランス記者)

私は出版業界にいたこともあります。その時の経験と比較しても、ここまで徹底した報道をしている組織は他にないと思います。シリーズ「誰が私を拡散したのか」など目を瞑ってしまいたいようなことに立ち向かって、報じてくれることがありがたいと感じます。私にはできないことを、代わりにやってもらうという気持ちで応援しています。

 

小坂高洋さん(50代/会社員)

Tansaの記事を読んでいると、社会問題がなぜ起きているのか構造がわかります。しかし、日々目にするニュースではそれがわかりにくい。既存のメディアは、社会で起きている問題のほんの一部しか報じていないことに気づきました。その気づきから、私には小中学生の子どもたちがいるのですが、日々のニュースを批判的に見ることや、報じられていることだけが全てではないこと、報道内容をさらに自分で調べることが大事だと伝えています。

 

清水モモさん(仮名、70代/元会社員)

長い間会社で働いてきて、女性だということを理由に理不尽な扱いを受け続けてきました。あごで使われたり、男性社員の灰皿を洗わされたりね。まだまだ不平等なことはあるけれど、少しずつ世の中の景色も変わってきたと思います。だから女性のことは余計に応援したい。私たちの分まで、挽回してほしいです。

パンフには載っていないが、創刊準備の期間も含めて7年半の間に、尽力してくれた元メンバーや学生インターン、様々な形で応援してくれた人たちもいる。どの人の力が欠けても今のTansaはない。

5月にTansaを退職した小倉優香さんは、パンフを紹介するこのコラムにコメントを寄せてくれた。

5月をもちましてTansaを退職いたしました。皆様へのご報告が遅くなってしまい申し訳ございません。昨年末頃から記者を続けるかどうか自分の中で迷いがあり、この度退職することを決めました。今は故郷の沖縄に戻り、自分なりに新たな道を探していけたらと思い、前向きに再出発しております。この先もTansaを応援したい気持ちは変わりません。早速取り寄せたパンフレットを友人に手渡しています。とても読みごたえのある一冊だと評判です。ぜひ皆様もご一読ください。

専従メンバーだけがTansaの主役なのではない。それぞれの場所と方法で「チームTansa」に関わって、少しでも社会を前に進めようという全ての人が主役だと私は思う。

追伸:パンフは、住所がわかる寄付者の方々には郵送しました。Tansaのサイトの「Tansaを知る」のページにも、PDFのリンクを「Tansa活動案内2023-2024」として添付しています。

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