編集長コラム

アリンコがダイキンと闘うためには(2)

2022年03月21日15時20分 渡辺周

シリーズ「公害 PFOA」が新たな局面に入った。3月18日にリリースした16回目の記事は、ダイキンの淀川製作所から大気にPFOAが排出され、摂津市内の女性60人の血液から高濃度のPFOAが検出された事実を伝えたものだ。昨年11月の初報では、地下水で育てた野菜を食べた男性9人の血液から高濃度のPFOAが検出されたことを報じたが、汚染源に大気中のPFOAが加わった。被害の規模は当初に考えていたより格段に大きいだろう。ダイキンは新聞・雑誌に「ダイキンは世界をふさわしい空気で満たしたい」という広告を載せているが、何かの冗談だろうか。

ダイキンの年間売上高は2兆5000億円。文房具もサポーターのご厚意に頼っているTansaは、ダイキンにしたらアリンコのようなものだ。Tansaはいつでも踏みつぶせる存在だろう。

しかもダイキンにはラッキーなことに、マスコミはダイキンのPFOA汚染を取り上げない。広告を握られている上に、PFOA汚染には省庁も自治体も尻込みしている。マスコミは当局の後ろ盾なしには動かない。

だがたとえアリンコでも、負けるわけにはいかない。そのために大切なことは三つある。

まず、論ではなくファクトで勝負すること。

論は発信者自体がよほどの有名人でない限り、弱い。相手に「そういう意見もありますね」と言われれば終わりだ。

ファクトは強い。逃げられない。中川七海が大阪・摂津市内で刑事のように聞き込みをし、情報公開請求を重ね、名古屋まで出かけてダイキンの十河社長を直撃したのは、ファクトを取るためだ。「ファクトを取る」というより「ファクトを狩猟する」という表現の方が近い。

次にディフェンスを固めること。

特に訴訟対策は必要だ。相手が訴えてくるのは構わないが、裁判では負けられない。その点、Tansaは顧問弁護士の喜田村洋一さんと周到に対策を打っている。

喜田村さんはメディア関係の訴訟では最強と言える弁護士だ。私がまだ朝日新聞にいた時、銀座のバーで喜田村さんと一緒になることがよくあった。ある時、喜田村さんが手がけていた訴訟が私には不利に思えた。「大丈夫ですか」と尋ねると、喜田村さんは「絶対こっちが勝つよ」と自信満々。実際に喜田村さん側が勝った。

相手が大きいほど燃える人でもある。私が朝日を辞め、Tansa(当時ワセダクロニクル)を立ち上げた時に顧問弁護士を引き受けたのも、大きな相手に挑む姿勢に共感したからだと思う。

そして何より大事なのは、誰のためにこの仕事をしているのかを常に心に留めること。

探査報道の目的は、相手をやっつけることでもなければ、功名心を満たすためでもない。犠牲者の救済と、これ以上の犠牲者を出さないことが目的だ。

ダイキンによるPFOA汚染で言えば、工場周辺に住んでPFOAに曝露した人たちが、ダイキンと怠慢な行政に泣き寝入りしなくていいように、ファクトを明らかにし続けるのが私たちの役割だ。直撃取材をしたのも、十河社長を困らせることが目的ではない。

そこの芯がしっかりしているからこそ、Tansaのメンバーはひたむきに頑張ることができる。

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