自民支えた企業の半世紀

憲法9条も変えよと提言/「金は出すが口も出す」経団連【政治と軍需企業-4】

2024年10月26日15時45分 Tansa編集部

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2002年、経団連の奥田碩会長(右から2人目)から政労使合意の報告を受ける小泉純一郎首相=首相官邸ホームページより

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

三菱重工など軍需企業は1998年、米国への武器輸出解禁を政府に要請した。米国は同盟国である。共同で開発・生産した武器を輸出するくらいはいいだろう。そういう理屈だ。

だが米国相手の輸出であっても、なかなか解禁は実現しない。武器輸出3原則には、憲法9条に基づき「平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避する」目的があるからだ。三木武夫首相が1976年に国会で答弁した。

経団連はあきらめない。

2004年7月、『今後の防衛力整備のあり方について』という提言を発表する。防衛装備予算が減少傾向にある中で、日本の軍需産業が苦境にあると訴えた。

例えば、欧米の企業との防衛事業の売り上げ比率の比較。ロッキードマーチンが87.8%と高いのに対して、日本は最大手の三菱重工業でさえ13.4%と低いことを示した。

下請け企業10社が近年、防衛関連事業から撤退したことも挙げた。

提言としては「一律の禁止ではなく、わが国の国益に沿った形で輸出管理、技術交流、投資のあり方を再検討する必要がある」と、武器輸出3原則を緩和するよう求めた。

この提言から3カ月後の2004年10月、今度は小泉純一郎首相の諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」がさらに踏み込む。武器輸出について「少なくとも米国の間で3原則を緩和すべき」と提言した。

小泉首相のこの諮問機関の座長は、東京電力の荒木浩顧問、座長代理はトヨタ自動車の張富士夫社長だった。財界の大物たちが権力者のふところに入り込み、武器輸出への道を開こうとしたのだ。

「戦力の不保持は現状から乖離」

経団連は翌2005年には、ついに武器輸出を阻む憲法9条をターゲットにし、改憲を提言した。

『わが国の基本問題を考える』で次のように書いている。

「戦力の不保持を謳う第9条第2項は、明らかに現状から乖離しているとともに、その解釈や種々の特別措置法も含め、わが国が今後果たすべき国際貢献・協力活動を進める上での大きな制約にもなっている」

「憲法上、まず、自衛権を行使するための組織として自衛隊の保持を明確にし、自衛隊がわが国の主権、平和、独立を守る任務・役割を果たすとともに、国際社会と協調して国際平和に寄与する活動に貢献・協力できる旨を明示すべきである」

経団連が憲法にまで踏み込んできた背景には、2003年に経団連の会長に就任した奥田碩氏(トヨタ会長)の存在がある。ゼネコン汚職で平岩外四・前経団連会長は93年に献金斡旋をやめていたが、奥田氏が復活させた。「金は出すが口も出す」のが奥田氏のやり方であり、奥田氏は改憲論者だった。

★2001年から2005年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。

親会社名 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年
三菱重工業
2754億
7800万円
3481億
800万円
2816億
9700万円
2706億
500万円
2416億
5800万円
1037万円 1031万円 1029万円 3000万円 3000万円
川崎重工業
1212億
6100万円
1102億
900万円
1845億
3100万円
1428億
5700万円
1650億
4100万円
129万円 116万円 119万円 131万円 264万円
三菱電機
1010億
1300万円
734億
5900万円
948億
7800万円
1032億
400万円
1141億
5000万円
2000万円 1120万円 1260万円 1820万円 1820万円
日本電気(NEC)
577億
2500万円
484億
8200万円
562億
8400万円
905億
6400万円
1077億
8400万円
1000万円 1000万円 1000万円 1500万円 1500万円
IHI
818億
1400万円
686億
2800万円
530億
6800万円
650億
1000万円
451億
700万円
952万円 892万円 998万円 1098万円 1090万円
東芝
452億
1000万円
497億
8600万円
388億
8100万円
415億
4200万円
494億
9200万円
3360万円 2404万円 2132万円 2904万円 3004万円
小松製作所
371億
6300万円
357億
4200万円
375億
5200万円
347億
600万円
337億
7400万円
0円 500万円 0円 1000万円 1000万円
SUBARU
179億
6800万円
216億
900万円
287億
8800万円
240億
3300万円
290億
5200万円
1935万円 1892万円 1930万円 1820万円 1760万円
富士通
160億
1100万円
222億
9500万円
209億
8600万円
218億
500万円
312億
9200万円
1000万円 1000万円 1000万円 1680万円 1680万円
伊藤忠商事
0円 312億
7400万円
219億
3800万円
227億
7200万円
274億
100万円
1550万円 1250万円 1750万円 1750万円 1857万
2000円

注記
・受注額は防衛庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

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