2002年、経団連の奥田碩会長(右から2人目)から政労使合意の報告を受ける小泉純一郎首相=首相官邸ホームページより
日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。
三菱重工など軍需企業は1998年、米国への武器輸出解禁を政府に要請した。米国は同盟国である。共同で開発・生産した武器を輸出するくらいはいいだろう。そういう理屈だ。
だが米国相手の輸出であっても、なかなか解禁は実現しない。武器輸出3原則には、憲法9条に基づき「平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避する」目的があるからだ。三木武夫首相が1976年に国会で答弁した。
経団連はあきらめない。
2004年7月、『今後の防衛力整備のあり方について』という提言を発表する。防衛装備予算が減少傾向にある中で、日本の軍需産業が苦境にあると訴えた。
例えば、欧米の企業との防衛事業の売り上げ比率の比較。ロッキードマーチンが87.8%と高いのに対して、日本は最大手の三菱重工業でさえ13.4%と低いことを示した。
下請け企業10社が近年、防衛関連事業から撤退したことも挙げた。
提言としては「一律の禁止ではなく、わが国の国益に沿った形で輸出管理、技術交流、投資のあり方を再検討する必要がある」と、武器輸出3原則を緩和するよう求めた。
この提言から3カ月後の2004年10月、今度は小泉純一郎首相の諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」がさらに踏み込む。武器輸出について「少なくとも米国の間で3原則を緩和すべき」と提言した。
小泉首相のこの諮問機関の座長は、東京電力の荒木浩顧問、座長代理はトヨタ自動車の張富士夫社長だった。財界の大物たちが権力者のふところに入り込み、武器輸出への道を開こうとしたのだ。
「戦力の不保持は現状から乖離」
経団連は翌2005年には、ついに武器輸出を阻む憲法9条をターゲットにし、改憲を提言した。
『わが国の基本問題を考える』で次のように書いている。
「戦力の不保持を謳う第9条第2項は、明らかに現状から乖離しているとともに、その解釈や種々の特別措置法も含め、わが国が今後果たすべき国際貢献・協力活動を進める上での大きな制約にもなっている」
「憲法上、まず、自衛権を行使するための組織として自衛隊の保持を明確にし、自衛隊がわが国の主権、平和、独立を守る任務・役割を果たすとともに、国際社会と協調して国際平和に寄与する活動に貢献・協力できる旨を明示すべきである」
経団連が憲法にまで踏み込んできた背景には、2003年に経団連の会長に就任した奥田碩氏(トヨタ会長)の存在がある。ゼネコン汚職で平岩外四・前経団連会長は93年に献金斡旋をやめていたが、奥田氏が復活させた。「金は出すが口も出す」のが奥田氏のやり方であり、奥田氏は改憲論者だった。
★2001年から2005年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。
親会社名 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 |
三菱重工業
|
2754億 7800万円 |
3481億 800万円 |
2816億 9700万円 |
2706億 500万円 |
2416億
5800万円 |
1037万円 | 1031万円 | 1029万円 | 3000万円 | 3000万円 | |
川崎重工業
|
1212億 6100万円 |
1102億 900万円 |
1845億 3100万円 |
1428億 5700万円 |
1650億
4100万円 |
129万円 | 116万円 | 119万円 | 131万円 | 264万円 | |
三菱電機
|
1010億 1300万円 |
734億 5900万円 |
948億 7800万円 |
1032億 400万円 |
1141億 5000万円 |
2000万円 | 1120万円 | 1260万円 | 1820万円 | 1820万円 | |
日本電気(NEC)
|
577億 2500万円 |
484億 8200万円 |
562億 8400万円 |
905億 6400万円 |
1077億
8400万円 |
1000万円 | 1000万円 | 1000万円 | 1500万円 | 1500万円 | |
IHI
|
818億 1400万円 |
686億 2800万円 |
530億 6800万円 |
650億 1000万円 |
451億 700万円 |
952万円 | 892万円 | 998万円 | 1098万円 | 1090万円 | |
東芝
|
452億 1000万円 |
497億 8600万円 |
388億 8100万円 |
415億 4200万円 |
494億 9200万円 |
3360万円 | 2404万円 | 2132万円 | 2904万円 | 3004万円 | |
小松製作所
|
371億 6300万円 |
357億 4200万円 |
375億 5200万円 |
347億 600万円 |
337億 7400万円 |
0円 | 500万円 | 0円 | 1000万円 | 1000万円 | |
SUBARU
|
179億 6800万円 |
216億 900万円 |
287億 8800万円 |
240億 3300万円 |
290億 5200万円 |
1935万円 | 1892万円 | 1930万円 | 1820万円 | 1760万円 | |
富士通
|
160億 1100万円 |
222億 9500万円 |
209億 8600万円 |
218億 500万円 |
312億 9200万円 |
1000万円 | 1000万円 | 1000万円 | 1680万円 | 1680万円 | |
伊藤忠商事
|
0円 | 312億 7400万円 |
219億 3800万円 |
227億 7200万円 |
274億 100万円 |
1550万円 | 1250万円 | 1750万円 | 1750万円 | 1857万 2000円 |
注記
・受注額は防衛庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一
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