自民支えた企業の半世紀

「武器輸出、アメリカは別だ」 態度豹変させた経団連/禁止原則「骨抜き」の始まり【政治と軍需企業-3】

2024年10月25日20時03分 Tansa編集部

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2024国際航空宇宙展での三菱重工のブース=2024年10月19日、羽賀羊撮影

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

日本の軍需企業にとって、「目の上のたんこぶ」がある。

武器輸出3原則だ。1967年に佐藤栄作首相が表明した。以下の3つの場合は武器が輸出できない。

・共産圏諸国向けの場合

 

・国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合

 

・国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合

1976年には三木武夫首相が、国会で武器輸出を禁止する目的について、「平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため」と明確にした。

日本の製造業は戦後、外国に販路を持つことで発展してきた。だが軍需企業は、自社の製品を輸出することはできない。武器輸出3原則をいかに骨抜きにし、撤廃にもっていくか。これが軍需企業の懸案となる。

三菱重工業会長「そのくらいは融通を」

冷戦終結後、政府は防衛調達予算を削減した。軍需企業はその穴埋めをしたいところだが、武器輸出3原則が重くのしかかっていた。

経団連・防衛生産委員会の佐々木実智男事務局長は、1993年2月15日付の日本工業新聞に手記を寄せた。「武器輸出については、今後とも解禁となる可能性はなく、また、防衛産業界から、武器輸出の解禁について働きかけを行う予定はない」と述べた。その理由の一つとして、世論の反発を挙げた。

「わが国の世論が概ね武器輸出に反対しており、特に、輸出した兵器が実際に使用され、相手方兵士等を殺傷した場合、世論の反発は極めて大きなものになると予想される」

ところが4年後の1997年1月、三菱重工業やボーイングなど日米の軍需企業が「日米安全保障産業フォーラム」(IFSEC)を結成。1998年1月には、日米政府が防衛装備について話し合う「装備・技術定期協議」に次のような提言をした。

「日米が共同で開発・生産した武器を、米国に輸出することを解禁するよう求める」

三菱重工の相川賢太郎会長は、1998年8月24日付の朝日新聞のインタビューで述べている。

「武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない」

「ただし、米国とは別だ。日本と同盟関係にある限り、米国に輸出してはいけないというのはおかしな話ではないか。輸出した方が日本の安全にも役立つので、そのくらいは融通をきかせてもいいのではないか」

★1996年から2000年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。

親会社名 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年
三菱重工業 3299億円 2719億円 3324億円 2796億
6900万円
3074億
4200万円
0円 1395万円 1288万円 1030万円 1035万円
三菱電機 1318億円 1287億円 1031億円 1120億
8400万円
1207億
9100万円
0円 2310万円 1820万円 1820万円 1820万円
川崎重工業 992億円 1468億円 873億円 1321億
9200万円
987億
2200万円
569万円 233万円 174万円 144万円 144万円
IHI 715億円 662億円 644億円 535億
2000万円
800億
9700万円
0円 1610万円 1616万円 1329万円 979万円
日本電気(NEC) 571億円 746億円 446億円 425億
6700万円
465億
1700万円
0円 4000万円 4000万円 1200万円 1200万円
東芝 522億円 486億円 377億円 538億
900万円
430億
800万円
3876万円 3769万
2000円
2964万円 3044万円 3044万円
小松製作所 296億円 344億円 354億円 370億
5100万円
353億
9300万円
0円 0円 0円 0円 0円
日立製作所 261億円 238億円 220億円 217億
6500万円
183億
1400万円
0円 3762万円 2964万円 2280万円 2964万円
日産自動車 265億円 253億円 267億円 273億
3700万円
0円
3150万円 3470万円 3720万円 3140万円 400万円
三井E&S 287億円 0円 277億円 0円 362億
9600万円
0円 215万円 138万円 112万円 110万円


注記
・受注額は防衛庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

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