2024国際航空宇宙展での三菱重工のブース=2024年10月19日、羽賀羊撮影
日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。
日本の軍需企業にとって、「目の上のたんこぶ」がある。
武器輸出3原則だ。1967年に佐藤栄作首相が表明した。以下の3つの場合は武器が輸出できない。
・共産圏諸国向けの場合
・国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
・国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
1976年には三木武夫首相が、国会で武器輸出を禁止する目的について、「平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため」と明確にした。
日本の製造業は戦後、外国に販路を持つことで発展してきた。だが軍需企業は、自社の製品を輸出することはできない。武器輸出3原則をいかに骨抜きにし、撤廃にもっていくか。これが軍需企業の懸案となる。
三菱重工業会長「そのくらいは融通を」
冷戦終結後、政府は防衛調達予算を削減した。軍需企業はその穴埋めをしたいところだが、武器輸出3原則が重くのしかかっていた。
経団連・防衛生産委員会の佐々木実智男事務局長は、1993年2月15日付の日本工業新聞に手記を寄せた。「武器輸出については、今後とも解禁となる可能性はなく、また、防衛産業界から、武器輸出の解禁について働きかけを行う予定はない」と述べた。その理由の一つとして、世論の反発を挙げた。
「わが国の世論が概ね武器輸出に反対しており、特に、輸出した兵器が実際に使用され、相手方兵士等を殺傷した場合、世論の反発は極めて大きなものになると予想される」
ところが4年後の1997年1月、三菱重工業やボーイングなど日米の軍需企業が「日米安全保障産業フォーラム」(IFSEC)を結成。1998年1月には、日米政府が防衛装備について話し合う「装備・技術定期協議」に次のような提言をした。
「日米が共同で開発・生産した武器を、米国に輸出することを解禁するよう求める」
三菱重工の相川賢太郎会長は、1998年8月24日付の朝日新聞のインタビューで述べている。
「武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない」
「ただし、米国とは別だ。日本と同盟関係にある限り、米国に輸出してはいけないというのはおかしな話ではないか。輸出した方が日本の安全にも役立つので、そのくらいは融通をきかせてもいいのではないか」
★1996年から2000年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。
親会社名 | 1996年 | 1997年 | 1998年 | 1999年 | 2000年 |
三菱重工業 | 3299億円 | 2719億円 | 3324億円 | 2796億 6900万円 |
3074億 4200万円 |
0円 | 1395万円 | 1288万円 | 1030万円 | 1035万円 | |
三菱電機 | 1318億円 | 1287億円 | 1031億円 | 1120億 8400万円 |
1207億 9100万円 |
0円 | 2310万円 | 1820万円 | 1820万円 | 1820万円 | |
川崎重工業 | 992億円 | 1468億円 | 873億円 | 1321億 9200万円 |
987億 2200万円 |
569万円 | 233万円 | 174万円 | 144万円 | 144万円 | |
IHI | 715億円 | 662億円 | 644億円 | 535億 2000万円 |
800億 9700万円 |
0円 | 1610万円 | 1616万円 | 1329万円 | 979万円 | |
日本電気(NEC) | 571億円 | 746億円 | 446億円 | 425億 6700万円 |
465億 1700万円 |
0円 | 4000万円 | 4000万円 | 1200万円 | 1200万円 | |
東芝 | 522億円 | 486億円 | 377億円 | 538億 900万円 |
430億 800万円 |
3876万円 | 3769万 2000円 |
2964万円 | 3044万円 | 3044万円 | |
小松製作所 | 296億円 | 344億円 | 354億円 | 370億 5100万円 |
353億 9300万円 |
0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | |
日立製作所 | 261億円 | 238億円 | 220億円 | 217億 6500万円 |
183億 1400万円 |
0円 | 3762万円 | 2964万円 | 2280万円 | 2964万円 | |
日産自動車 | 265億円 | 253億円 | 267億円 | 273億 3700万円 |
0円 |
3150万円 | 3470万円 | 3720万円 | 3140万円 | 400万円 | |
三井E&S | 287億円 | 0円 | 277億円 | 0円 | 362億 9600万円 |
0円 | 215万円 | 138万円 | 112万円 | 110万円 |
注記
・受注額は防衛庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一
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