自民支えた企業の半世紀

「宇宙の利用は平和目的限定」の国会決議/ビジネスには「邪魔だ」【政治と軍需企業-5】

2024年10月26日15時45分 Tansa編集部

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2023年G7各国の経済団体が集まるサミットで挨拶する岸田文雄・前首相=首相官邸Xより

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

米国のアポロ11号が初めて月に着陸したのは、1969年7月。その2カ月前、日本の国会では「宇宙の平和利用」を全会一致で決議した。

「わが国における地球上の大気圏の主要部分を超える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げ用ロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉をはかり、あわせて産業技術の発展に寄与するとともに、進んで国際協力に資するため、これを行うものとする」

だが37年後の2006年6月、経団連はこの決議は安全保障にとって邪魔だと批判する。以下、『わが国の宇宙開発利用促進に向けた提言』から。

「テロ、ミサイル攻撃の脅威といった安全保障をめぐる環境変化、大規模災害、環境問題への対応など、国民の安全・安心の確保がますます重要となっている」

「宇宙からの観測・監視・測位などを通じた有益な情報の迅速な入手は、安全保障・危機管理に不可欠である」

「この障害の一つとなっているのが、わが国の宇宙利用を『非軍事』に限定した1969年の宇宙の平和利用に関する国会決議である。2003年には情報収集衛星が打ち上げられたが、これは一般化原則(衛星の性能を利用が一般化した範囲内に限定)という制約が課せられた衛星であり、衛星が本来持つ潜在能力が十分に発揮しきれていない可能性がある」

たった4時間の国会審議

それから2年後の2008年、宇宙基本法が成立。宇宙の軍事利用が可能になった。国会での審議時間は、たった4時間だった。

新設の宇宙開発担当相には、岸田文雄氏が就任。政府の宇宙開発戦略専門調査会には、経団連会長でキヤノン会長の御手洗冨士夫氏、トヨタ自動車社長の渡辺捷昭氏、みずほフィナンシャルグループ社長の前田晃伸氏が入った。

2009年度予算では、防衛省は初めて宇宙予算を計上。158億円だった。

経団連の抜け目がないところは、法律ができただけで安心せず、次々と提言を繰り出していくことだ。2009年2月に『戦略的宇宙基本計画の策定と実効ある推進体制の整備を求める』、同年5月に『宇宙基本計画に関する意見』を出した。

2010年4月には、『国家戦略としての宇宙開発利用の推進に向けた提言』を発表。宇宙開発が安全保障に貢献することが重要だと説いた。

「北東アジア情勢が依然として緊迫するなかで、地球を広域で観測できる宇宙の特性を安全保障へ活用することが有効である。宇宙からの眼、耳を使って警戒・監視、情報収集を行い、危険を一刻も早く察知することが重要であり、即応型宇宙システムの構築が不可欠である」

★2006年から2010年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。

親会社名 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
三菱重工業
2775億
9000万円
3275億円 3140億円 2629億円 2600億円
3000万円 4000万円 4000万円 1000万円 1000万円
三菱電機
1177億
1500万円
961億円 1556億円 1827億円 1016億円
1820万円 2520万円 2520万円 2520万円 910万円
川崎重工業
1306億
3500万円
982億円 1530億円 1043億円 1202億円
500万円 500万円 500万円 500万円 250万円
日本電気(NEC)
831億
1000万円
717億円 982億円 722億円 863億円
1800万円 1800万円 1800万円 1500万円 1000万円
富士通
440億
6600万円
442億円 443億円 495億円 431億円
1680万円 1800万円 1800万円 1800万円 1200万円
IHI
476億
2800万円
438億円 503億円 263億円 382億円
1090万円 62万円 1600万円 1600万円 800万円
小松製作所
362億
9100万円
334億円 365億円 343億円 334億円
1000万円 1000万円 1100万円 650万円 650万円
東芝
422億
9500万円
570億円 315億円 168億円 183億円
3069万円 4060万円 4060万円 3900万円 1450万円
ジャパンマリン
ユナイテッド
446億
700万円
0円 129億円 0円 785億円
126万円 121万円 121万円 60万円 0円
日立製作所
193億
5200万円
198億円 182億円 197億円 181億円
3350万円 4350万円 4350万円 4150万円 1680万円

注記
・受注額は防衛庁・防衛省の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

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