自民支えた企業の半世紀

三菱重工業会長から防衛庁長官へのお願い/冷戦終結後も「発注減らさないで」【政治と軍需企業-2】

2024年10月25日20時02分 Tansa編集部

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2024国際航空宇宙展での三菱重工のブース=2024年10月19日、羽賀羊撮影

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

冷戦が終わり、世界は軍事費削減へと舵を切った。

1990年4月9日の衆議院予算委員会。当時は野党だった公明の市川雄一議員が、海部俊樹首相を質す。

「米ソ首脳が冷戦終えんを確認している。世界情勢が大きく変わった。そういう中で前年度比6.1%も防衛費をふやす必要はあるのか。あるいはこれからの防衛力の整備に当たって、アメリカも1800億ドルですか、防衛費の削減を3年ぐらいでやる、こうおっしゃっている。ソ連もかなり防衛費を削ろうとしている」

海部首相の答弁は曖昧だったが、「大きな方向としては、委員の今申されたことと私は近いのではないか、こう思いながら承っておりました」と言った。

日本でも、防衛調達予算は1991年度を境に減少に転じる。防衛調達予算とは、人件費などを抜いた予算のことだ。

経団連「生産ラインの維持困難になる」

このままでは軍需企業は痛手を被ることになる。

1993年10月、三菱重工業会長の飯田庸太郎らは、中西啓介長官ら防衛庁幹部と懇談会を開いた。飯田会長は「発注を減らさないでほしい」と要望した(1993年10月19日付朝日新聞)。

飯田会長は、この年の1月30日に掲載された毎日新聞のインタビューでは、次のように語っている。

「防衛の必要性そのものが問われることがないまま(中期防衛力整備計画の)見直しが決まってしまった。日本は独立国としてやっていけるのかとまで思ってしまう」

「独立国として門を閉めることは、夜、カギをかけて寝ることと同じ。中国や韓国など隣近所の情勢をよく見て決めないといけない」

1995年には、経団連が「新時代に対応した防衛力整備計画の策定を望む」という提言を出して、政府に軍需産業を支援するよう求めた。このままでは「生産ラインの維持が困難」と述べている。

「欧米諸国とは異なり、わが国には国営の軍需工場は存在しないため、わが国の防衛生産・研究開発、装備の維持・補給・能力向上を支えているのは、産業界である。また、装備品の生産は、中小企業を含む多数の企業の参加により可能となっている。しかし、市場が国内に限定された中で、ここ数年、装備予算が削減されてきていることから、各社とも技術者や生産ラインの維持が困難になってきている」

★1990年から1995年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。

親会社名 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年
三菱重工業 4408億
2900万円
3544億
1700万円
3393億円 2649億
5000万円
2790億円 2290億円
4224万円 4865万円 5951万円 2643万円 910万円 1908万円
川崎重工業 1464億
6900万円
1413億
6100万円
1134億円 1261億
2000万円
1482億円 1569億円
1075万円 1807万円 2443万円 1142万円 480万円 283万円
三菱電機 1127億
3100万円
1072億
4500万円
1089億円 915億
7000万円
959億円 1085億円
7951万円 1億1001万円 4801万円 3401万円 2101万円 1610万円
IHI 786億
400万円
1047億
6100万円
726億円 938億
5000万円
527億円 563億円
1780万円 2583万円 2339万円 1380万円 390万円 1201万円
日本電気(NEC) 544億
5600万円
565億
2800万円
523億円 435億
2000万円
531億円 729億円
4440万円 4770万円 4770万円 3850万円 2100万円 4000万円
東芝 599億
400万円
481億
2000万円
411億円 394億
5000万円
412億円 508億円
4800万円 4800万円 4800万円 4800万円 3420万円 2622万円
SUBARU 215億
7700万円
321億
8500万円
293億円 307億
8000万円
248億円 280億円
1752万円 1734万円 1622万円 1712万円 1000万円 1256万円
日本製鋼所 348億
1900万円
275億
2000万円
199億円 199億
2000万円
194億円 334億円
236万円 450万円 704万円 239万円 0円 0円
日産自動車 131億
4500万円
138億
4500万円
281億円 288億
3000万円
296億円 295億円
4690万円 4920万円 1038万円 4680万円 2690万円 2500万円
小松製作所 224億
3800万円
227億
9000万円
216億円 239億
4000万円
238億円 242億円
1200万円 1530万円 1130万円 1200万円 0円 0円


注記
・受注額は防衛庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

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