誰が私を拡散したのか

性的画像の拡散被害に遭われている方々へ(22)

2024年02月16日14時27分 辻麻梨子

子どもや女性の性的画像が取引されていたアプリ「アルバムコレクション」は、2024年1月31日をもって、すべての機能が使えなくなりました。昨年12月31日に、アルバムコレクションのウェブサイト上でサービスの終了を告知していました。

アルバムコレクションが運用を始めたのは、2017年頃です。約6年にわたって、多くのデジタル性暴力被害を助長してきました。子どもへの性暴力、撮影や第三者への提供に女性の同意がないもの、トイレや駅などでの隠し撮りを取引する場になっていたのです。

それらの画像はインターネットやSNS上で拡散し続け、被害者側が削除しても削除しても追いつきません。中には自殺を図った女性もいます。

事態を悪化させたのは、アルバムコレクションがAppleのApp Storeに掲載され、誰でも簡単に入手できる状態にあったことでした。2023年12月には一時、「写真/ビデオ」カテゴリで、1位にランクインするほどの人気アプリに。2位にInstagram、4位にYouTubeが入る中での1位です。

アルバムコレクションを終了に追い込んだのは、2022年11月から始めたTansaの本シリーズでした。被害実態を報じると共に、ホワイトハッカーとも協力し運営者を特定しました。Apple CEOのティム・クック氏にはメールで質し、AppleはアルバムコレクションをApp Storeから取り下げました。

ところが、問題がこれで終わったわけではありません。ユーザーはアルバムコレクションの類似アプリへ移り、性的画像のやり取りを続けています。

被害を食い止めるために、私は取材を継続します。デジタル性暴力の被害に遭われた方や、そのご家族の方々には取材にご協力いただきたいと考えています。

(イラスト:qnel)

別アプリで加害続けるものたち

まずはこれまでの経緯をお伝えします。

昨年アルバムコレクションが終了を発表した頃から、加害者たちが画像を投稿する別のアプリの存在が目につくようになりました。「カプセルシェア(Capsule Share)」です。

カプセルシェアは少なくとも2022年10月頃から提供を開始。フォルダにパスワードを付与することで、そのパスワードを知る人なら誰でも画像にアクセスできる点や、画像を入手する際に有料の「鍵」を購入する必要がある点がアルバムコレクションの仕組みとよく似ています。

実際にアプリを入手して確認してみると、確かに子どもや盗撮のような違法性の高いとみられる性的画像が送受信されていました。

アプリはAppleのApp Storeと、GoogleのGoogle Playの両方で入手ができる状態にあります。2月14日時点でApp Storeでは「写真/ビデオ」のカテゴリで58位。Google Playでは1万ダウンロードされたことがわかっています。

被害者の性的画像は、大容量のファイルを無料で送受信できるサービス「ギガファイル便」などでも多くやりとりされています。ギガファイル便の場合、お金のやりとりはPayPayなどのキャッシュレス決済によって行われています。

未成年の動画や盗撮を販売しようとするXの投稿は、今も続いている

あまりに軽い運営者の認識

アプリやギガファイル便などのウェブサービスによって一度拡散した性的画像は、アップロードとダウンロードが繰り返され、消えません。被害者の人生に付き纏います。

アプリを運営し、性的画像の取引をする場を提供することによってお金を儲けていた人物は、どう考えているのでしょうか。

Tansaは昨年2人のホワイトハッカーと共に、アルバムコレクションを始めた人物を特定。直接会って話を聞きました。この人物はアルバムコレクションを管理・運営する中で、子どもや女性の被害画像を実際に目にしていたと言います。

約2時間に及ぶ取材で、画像を見て何を感じたのか尋ねました。返ってきたのはこの言葉だけです。

「よくないことだと思います」

無視続けるGoogleとApple

アルバムコレクションを運営していた人物は、感覚が麻痺しているとしか思えません。

しかしひどいのは、この人物だけでしょうか。

これまで取材を続けてきた私は、むしろ彼らを取り巻くシステムが、一様に傍観の姿勢を貫いている状況に危機感を抱いています。

デジタル性暴力を防止する責任のあるプラットフォーマー、それを監督する行政や警察に、真剣に取り組もうという姿勢はありません。

GoogleとAppleは、アルバムコレクションなど被害者の画像が取引されるアプリを自社のストアに掲載していました。

GoogleもAppleも、日本国内のアプリ市場を独占する2社です。いずれもストアの安全性を謳ってさえいます。ところが「普通のアプリ」のように偽装されれば、取引の実態は違法でも見破れません。両社は審査を通しています。

例えばアルバムコレクションと同じ機能のアプリ「動画シェア」は、一度取り下げられた後に「動画シェア+」と名前を変え、再びGoogle Playで扱われていました。名前を変えただけで、中身はまったく同じです。違法画像が溢れていました。

Tansaは両社に対して複数回にわたり、アプリの提供を見直すよう質問状を送付しています。しかし一度として、質問内容への回答はありませんでした。

解決策にならない削除要請

公的機関には、被害者を救済できる仕組みがあるのでしょうか。

本シリーズの初回の記事では、被害に遭ったAさんの経験を伝えました。Aさんは自身の画像が売買されていると知ったあと、警察に相談しています。そこで伝えられたのは、「画像の削除を要請するしかない」ということでした。

ところが画像の掲載元には、画像の削除に応じる法的義務はありません。被害者に代わって削除要請を行うNPO法人ぱっぷすによると、要請後も3割の画像が放置されていたといいます

そもそも「削除すること」は、問題の解決にはなりません。

一度でも出回れば複製され続ける画像に被害者が対処しようと思えば、永遠にネット上を監視することになります。別の被害者Bさんとその家族は、毎日ネットやSNSを見回り、気が休まる暇がありません。被害に気づいてから、すでに4年あまりが経過しています。

デジタル性暴力の被害は、あまりに軽く見られています。

なにが変化を起こしてきたのか

本シリーズを開始してから1年半あまり、私は被害の救済と防止を掲げて取材を続けてきました。今も同じことが繰り返され、日に日に被害者が増えていることにやるせなさを抱えています。

しかしこの間、変化もありました。

Googleは昨年動画シェアを、Appleはアルバムコレクションを自社のストアから取り下げています。いずれもTansaがGoogle社員に接触したり、Apple CEOティム・クック氏へはたらきかけたりした直後のことです。

アルバムコレクションは前述の通り、すべてのサービスを終了して使えなくなりました。

変化を生んだのは、被害の経験を私に打ち明けてくれた、当事者や当事者を支える家族たちの勇気です。

彼女ら、彼らの告発がなければ、事態が明るみになることはありませんでした。

だからこそ、この記事を読んでいる当事者の方にお願いがあります。

性的画像の拡散被害について、情報をお寄せください。記事で言及したアプリやツールのほか、メッセージアプリなどでの被害についてもお聞かせください。お子さんやご友人が被害にあった方も情報提供もお願いします。証言がより多く集まれば、傍観に徹する企業や国も動かざるを得ないでしょう。

いただいた情報は厳守し、個人が特定されることがないようプライバシーには最大限に配慮して管理します。Tansaではやり取りの内容が外部からは見られないよう、暗号化される安全なメールなどをご案内しています。記事にする場合は、ご本人の心身の状況を最優先に、ご相談の上で掲載します。

詳しい情報提供の方法は、こちらのページをご覧ください。

「あと何人の子どもが苦しみ、死んでいくのだろう?」

被害に遭われていない方々もこの問題を知り、声をあげて深刻な事態を変えるための力となってください。

現在本シリーズにはのべ290人の方から、合計212万円の取材費を寄付いただいています。そのおかげで、2回にわたる国外取材を含む様々な取材に注力することができました。「一刻も早く被害を止めたい」という多くのメッセージも寄せられています。

米国では、当事者の声とそれを後押しする社会の要請により、プラットフォームの責任が追及され始めています。

1月31日、米国の上院議員らが児童をソーシャルメディアなどでの性的搾取から守ろうと、公聴会を開きました。公聴会とは、連邦議会の委員会が重要な法案などを審議するために、専門家や関係者から情報収集を行う場です。

証言台に立ったのは、巨大なソーシャルメディアを運営する企業5社の幹部です。FacebookやInstagramを運営するMetaのマーク・ザッカーバーグ氏やX(旧Twitter)のリンダ・ヤッカリーノ氏のほか、Snap、TikTok、DiscordのCEOらが出席しました。

会の冒頭、2分程度の動画が流されました。これまでインターネットやソーシャルメディアで性的画像の拡散などの被害を受けた当事者と、その家族たちの証言です。

「私はInstagramで性的搾取を受けました」

「息子のライリーはFacebookで性的搾取を受けた後、自殺で亡くなりました」

「この問題を何度も報告しましたが、誰も助けてくれず、10年以上かかりました」

「息子が自室で自殺を図ったという電話を受けました。当時まだ13歳でした。息子と友人はネット上で搾取され、拡散され、Xに連絡を取りました。Xの回答はこうでした。『ご連絡ありがとうございます。内容を確認しましたが、ポリシー違反は見つかりませんでした』。そして何の対応もされませんでした」

「ソーシャルメディアのせいで、あと何人の子どもたちが苦しみ、死んでいくのだろう?」

息子がFacebookで性的搾取に遭い、自殺したと語る母親(CBS NEWS YouTubeチャンネルより)

米国議員、Metaザッカーバーグ氏に「手が血塗られている」

映像が流れ終わると、司法委員会の民主党委員長であるディック・ダービン議員が口を開きました。

ネット上での児童の性的搾取はアメリカの危機です」

「児童の性的搾取のこの憂慮すべき増加は、テクノロジーの変化によって引き起こされています」

共和党上院議員リンゼー・グラハム氏は、ザッカーバーグ氏にこう語りかけました。

「そんなつもりはないでしょうが、あなたの手は血塗られています」

「人を殺す製品を持っている」

会場からは拍手が上がりました。

公聴会には、性的搾取により自殺したり被害を受けたりした子どもの親たちも参加しました。現在米国では親や州政府が、子どもの性的搾取やメンタルヘルスの悪化を理由にソーシャルメディア企業を提訴するケースが相次いでいます。

しかし、被害者に対する補償さえしていないというザッカーバーグ氏に対し、共和党のジョシュ・ハウリー議員は詰め寄ります。

「これだけは聞かせてください。今日ここに被害者のご家族がいますが、あなたは被害者に謝罪しましたか?今すぐ謝罪しますか?彼らはここにいて、あなたは全国放送のテレビに出演していますが、あなたの製品によって被害を受けた被害者に今すぐ謝罪したいですか?」

ザッカーバーグ氏は言葉に詰まりつつも、子どもたちの写真を掲げる家族のいる背後を振り返りました。

「あなた方が経験したすべてについて申し訳なく思います」

亡くなった子どもの写真を掲げる遺族に、謝罪するマーク・ザッカーバーグ氏=中央(CBS NEWS YouTubeチャンネルより)

プラットフォーム企業だけが、重大な事態を引き起こしても責任から逃れているとの指摘もありました。

発言したのは民主党のエイミー・クロブシャー上院議員。今年1月にボーイング社の飛行機からパネルが吹き飛ばされた事故と比較し、こう疑問を呈しています。

「数週間前にボーイング社の飛行機が飛行中にドアを紛失したとき、運航を停止にするという決定に疑問を抱く人は誰もいなかった。ではなぜ、私たちは子どもたちが死にかけていると知っているのに、こうしたプラットフォームの危険性に対して同様の断固とした行動をとらないのでしょうか?」

私はこの主張がもっともだと思います。命を危険に晒すという意味では、飛行機の事故とオンラインでの性的搾取は同じだけ重大な出来事だからです。

Tansaは引き続き、デジタル性暴力をアプリを使ってビジネスモデルに組み込んだ者たち、それを傍観している巨大プラットフォーム、行政を追及していきます。

もう一度当事者のみなさまにお願いします。被害を食い止めるため、どうかあなたのご経験を教えてください

=つづく

専門家や支援機関への相談先

自分の性的画像が無断で投稿されている、性的画像を元に脅迫や強要を受けているといった場合に無料で相談できる専門窓口があります。

 

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター:性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携しています。

 

NPO法人ぱっぷす:リベンジポルノ・性的な盗撮・グラビアやヌード撮影によるデジタル性暴力、アダルトビデオ業界や性産業にかかわって困っている方の相談窓口です。

 

よりそいホットライン:電話、チャット、SNSなどで性的被害について専門相談員に相談ができます。

 

インターネット・ホットラインセンター:児童ポルノなどを見つけた場合に通報することができます。通報をもとに、センターが警察に情報提供したり、サイト管理者等に送信防止措置を依頼します。

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。Tansaは引き続きこの問題を追及していきます。取材が長期化しており、まだまだ海外出張などを含む取材経費が必要です。サポートはこちらからお願いします。

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