2019年来日中のドナルド・トランプ大統領(当時)とゴルフをする安倍晋三・元首相=首相官邸ホームページより
日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。
防衛大綱とは、およそ10年の安全保障政策の基本方針だ。内閣が決める。これに基づいて、どれくらいの兵器を準備するか5年単位の中期計画を立てる。
2011年度以降の防衛大綱は、前年の12月17日に定められた。時は民主党政権、菅直人氏が首相だ。
その日のうちに、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)が、大綱に関する「会長コメント」を出す。
「防衛装備品の国際共同開発・生産への参加が可能となるよう、武器輸出3原則等の具体的な見直しを求めたい」
1990年代は、同盟国である米国に限っての武器輸出を経団連は求めていた。三菱重工業の相川賢太郎会長は、1998年に朝日新聞のインタビューで述べている。
「武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない」
「ただし、米国とは別だ。日本と同盟関係にある限り、米国に輸出してはいけないというのはおかしな話ではないか」
それが10年を経て、露骨に武器輸出解禁を求めるようになっていた。
アメリカ経済史専門家「米国と同じ道は愚かしい」
経団連の要望は、民主党が下野し、第2次安倍晋三政権が発足してから実現する。
2014年4月、安倍政権は「武器輸出3原則」を、「防衛装備移転3原則」に置き換えた。これは、政府が「平和的貢献・国際協力の積極的な推進に資する」「わが国の安全保障に資する」と認めれば、輸出相手国の厳格な管理を条件に、武器の輸出をできるようにするというものだ。
2015年10月には防衛装備庁が発足した。自衛隊の武器調達や輸出を一括して担うようになった。
法案は、衆議院安全保障委員会で審議した。獨協大学名誉教授の西川純子氏(アメリカ経済史)は、参考人として参加。防衛装備庁の新設について、「軍産複合体」への道へとつながると批判した。
「防衛省が予算を獲得し、新設の機関、この防衛装備庁でありますが、これを民間企業に効率よく配分する過程で、日本の産業は急速に軍事化するだろうと思われます。主契約企業はもとより、下請契約企業、大学などの研究機関にも軍事予算があまねく行き渡るようになります」
「そして、つくり過ぎた武器は海外へ売る。そのために武器3原則は既に廃止されました。これは、日本が自前で武器を開発し、生産する体制づくりに向けて、法整備を着々と進めているということだろうと思います。この先に見えるのは軍産複合体であります」
「ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス、これは有名な言葉でありますけれども。同じことを、アメリカはもちろんほかの国もやっているじゃないかと言われるかもしれませんが、しかし、アメリカの軍産複合体についていささかでも知識があれば、これを、日本でも、アメリカに見習って同じ道を歩もうというのは愚かしいと言うほかないわけであります」
★2011年から2015年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。
親会社名 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
三菱重工業
|
2888億円 | 2403億円 | 3165億円 | 2632億円 | 1998億円 |
1000万円 | 1000万円 | 3000万円 | 3300万円 | 3300万円 | |
川崎重工業
|
2099億円 | 1480億円 | 948億円 | 1913億円 | 2778億円 |
250万円 | 250万円 | 250万円 | 300万円 | 300万円 | |
三菱電機
|
1153億円 | 1240億円 | 1040億円 | 862億円 | 1083億円 |
910万円 | 910万円 | 1820万円 | 1820万円 | 1820万円 | |
日本電気(NEC)
|
1151億円 | 1632億円 | 799億円 | 1013億円 | 739億円 |
700万円 | 700万円 | 1500万円 | 1500万円 | 1500万円 | |
IHI
|
354億円 | 413億円 | 575億円 | 619億円 | 1147億円 |
800万円 | 800万円 | 1000万円 | 1000万円 | 1000万円 | |
東芝
|
504億円 | 503億円 | 284億円 | 467億円 | 573億円 |
1450万円 | 1450万円 | 2900万円 | 2900万円 | 50万円 | |
富士通
|
529億円 | 300億円 | 401億円 | 527億円 | 364億円 |
1000万円 | 1000万円 | 1000万円 | 1500万円 | 1500万円 | |
小松製作所
|
334億円 | 267億円 | 294億円 | 339億円 | 291億円 |
650万円 | 650万円 | 800万円 | 800万円 | 800万円 | |
ジャパンマリン
ユナイテッド
|
0円 | 740億円 | 116億円 | 102億円 | 389億円 |
0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | |
ENEOS
ホールディングス
|
272億円 | 244億円 | 271億円 | 261億円 | 184億円 |
390万円 | 190万円 | 400万円 | 550万円 | 550万円 |
注記
・受注額は防衛省・防衛装備庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一
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