自民支えた企業の半世紀

安倍政権で加速した「軍産複合体」への道/「武器輸出3原則」は廃止【政治と軍需企業-6】

2024年10月26日15時45分 Tansa編集部

FacebookTwitterEmailHatenaLine

2019年来日中のドナルド・トランプ大統領(当時)とゴルフをする安倍晋三・元首相=首相官邸ホームページより

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

防衛大綱とは、およそ10年の安全保障政策の基本方針だ。内閣が決める。これに基づいて、どれくらいの兵器を準備するか5年単位の中期計画を立てる。

2011年度以降の防衛大綱は、前年の12月17日に定められた。時は民主党政権、菅直人氏が首相だ。

その日のうちに、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)が、大綱に関する「会長コメント」を出す。

「防衛装備品の国際共同開発・生産への参加が可能となるよう、武器輸出3原則等の具体的な見直しを求めたい」

1990年代は、同盟国である米国に限っての武器輸出を経団連は求めていた。三菱重工業の相川賢太郎会長は、1998年に朝日新聞のインタビューで述べている。

「武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない」

「ただし、米国とは別だ。日本と同盟関係にある限り、米国に輸出してはいけないというのはおかしな話ではないか」

それが10年を経て、露骨に武器輸出解禁を求めるようになっていた。

アメリカ経済史専門家「米国と同じ道は愚かしい」

経団連の要望は、民主党が下野し、第2次安倍晋三政権が発足してから実現する。

2014年4月、安倍政権は「武器輸出3原則」を、「防衛装備移転3原則」に置き換えた。これは、政府が「平和的貢献・国際協力の積極的な推進に資する」「わが国の安全保障に資する」と認めれば、輸出相手国の厳格な管理を条件に、武器の輸出をできるようにするというものだ。

2015年10月には防衛装備庁が発足した。自衛隊の武器調達や輸出を一括して担うようになった。

法案は、衆議院安全保障委員会で審議した。獨協大学名誉教授の西川純子氏(アメリカ経済史)は、参考人として参加。防衛装備庁の新設について、「軍産複合体」への道へとつながると批判した。

「防衛省が予算を獲得し、新設の機関、この防衛装備庁でありますが、これを民間企業に効率よく配分する過程で、日本の産業は急速に軍事化するだろうと思われます。主契約企業はもとより、下請契約企業、大学などの研究機関にも軍事予算があまねく行き渡るようになります」

「そして、つくり過ぎた武器は海外へ売る。そのために武器3原則は既に廃止されました。これは、日本が自前で武器を開発し、生産する体制づくりに向けて、法整備を着々と進めているということだろうと思います。この先に見えるのは軍産複合体であります」

「ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス、これは有名な言葉でありますけれども。同じことを、アメリカはもちろんほかの国もやっているじゃないかと言われるかもしれませんが、しかし、アメリカの軍産複合体についていささかでも知識があれば、これを、日本でも、アメリカに見習って同じ道を歩もうというのは愚かしいと言うほかないわけであります」

★2011年から2015年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。

親会社名 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
三菱重工業
2888億円 2403億円 3165億円 2632億円 1998億円
1000万円 1000万円 3000万円 3300万円 3300万円
川崎重工業
2099億円 1480億円 948億円 1913億円 2778億円
250万円 250万円 250万円 300万円 300万円
三菱電機
1153億円 1240億円 1040億円 862億円 1083億円
910万円 910万円 1820万円 1820万円 1820万円
日本電気(NEC)
1151億円 1632億円 799億円 1013億円 739億円
700万円 700万円 1500万円 1500万円 1500万円
IHI
354億円 413億円 575億円 619億円 1147億円
800万円 800万円 1000万円 1000万円 1000万円
東芝
504億円 503億円 284億円 467億円 573億円
1450万円 1450万円 2900万円 2900万円 50万円
富士通
529億円 300億円 401億円 527億円 364億円
1000万円 1000万円 1000万円 1500万円 1500万円
小松製作所
334億円 267億円 294億円 339億円 291億円
650万円 650万円 800万円 800万円 800万円
ジャパンマリン
ユナイテッド
0円 740億円 116億円 102億円 389億円
0円 0円 0円 0円 0円
ENEOS
ホールディングス
272億円 244億円 271億円 261億円 184億円
390万円 190万円 400万円 550万円 550万円

注記
・受注額は防衛省・防衛装備庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

【政治と軍需企業】の記事を読む

(1)総額36兆円! 大手軍需企業が冷戦終結以降に受注/自民党への献金と政策要望の末に

(2)三菱重工業会長から防衛庁長官へのお願い/冷戦終結後も「発注減らさないで」

(3)「武器輸出、アメリカは別だ」 態度豹変させた経団連/禁止原則「骨抜き」の始まり

(4)憲法9条も変えよと提言/「金は出すが口も出す」経団連

(5)「宇宙の利用は平和目的限定」の国会決議/ビジネスには「邪魔だ」

(7)米国政府の言いなり安倍政権/経団連は受注減に焦り

(8)「まるでキックバック」の三菱重工と自民/決壊した「平和国家」の堤防

自民支えた企業の半世紀一覧へ